研究課題/領域番号 |
20K12481
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小高 康照 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 技術専門職員 (00813396)
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研究分担者 |
長濱 弘季 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00804072)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高周波四重極線形減速装置 / 電気双極子能率測定 / イオンビーム輸送 / ペッパーポット型エミッタンス測定器 |
研究実績の概要 |
126MeVの酸素イオンビームを金(Au)標的に衝突させ核融合反応で生成したフランシウム(Fr)の永久電気双極子能率(EDM)を世界最高感度で測定するためのFr生成収量の増強が研究目的である。そのために強度3puA以上の酸素イオンビームを標的で幅1mmに収束するビーム輸送法と生成したFrイオンビームを減速し冷却する高周波四重極線形減速装置(RFQD)を相乗的に開発し、低速・低エミッタンスFrイオンビームを実現する。現状の酸素ビーム輸送ラインのビーム輸送率は2puAを超えると平均6割に低下する。目的のためには3puA以上のビーム強度に対応した高ビーム輸送率のビーム輸送方法の確立が必要であり、そのために大強度ビームのエミッタンスを理解するための測定器開発を進めている。2021年度は、測定器のカメラセンサの放射線損傷が著しいためカメラを頻繁に交換する事に決め、そのために安価な低画素数カメラを使用し、カメラを放射線発生源から遠ざける望遠レンズ光学系で測定条件を追求し、可能な解を得ることができた。これを第18回日本加速器学会年会で報告した。また性能評価のため近接カメラ光学系でビーム照射テストを行った。現在解析を進め、データ処理方法を検討している。一方、RFQDは新型コロナの影響により、オランダ・フローニンゲン大学からの移設時期を引き続き調整しているが、RFQDの原理と類似だが減速機能は持たないRF質量分析器を開発・設置して動作試験を行いながら、RFQDの性能向上に向けた検討を進めている。またRFQDにおけるビーム運動シミュレーション計算も進めている。イオンビームの減速と冷却に必要なHeガスとの衝突の計算において、Heガスが無い場合の計算結果は過去の研究と一致したが、Heガスが存在する場合はイオン速度によって計算モデルが異なり、その理解と検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸素イオンビーム輸送法開発については、2021年度はエミッタンス測定器のカメラセンサの放射線損傷に対して安価な低性能カメラを採用し、望遠レンズ光学系を採用してカメラを放射線発生源から遠ざける方針に則り、低画素数小型カメラでも測定精度の許容範囲であることを確認し、放射線発生源から遠ざけるため望遠レンズを用いた光学条件も確定した。これによりカメラ光学系の構築が可能となった。また測定器の性能評価のためにビーム照射テストを行い、解析により今後の課題も分析できるようになった。これらの課題を改善し2022年度後半のビーム照射テストに進めると考えている。一方、新型コロナ感染症の影響により、JSPS二国間交流事業で進めているオランダ・フローニンゲン大学との国際共同研究による高周波四重極線形減速装置(RFQD)の構成装置の移送が遅延していたが、2022年度の移送が見込まれており、本体開発に着手できる予定である。2021年度は本体開発は進めていない一方で、RFQDの設計、動作原理の研究内容をふまえて、RFQDにおけるイオンビーム運動のシミュレーション計算を進めており、Heガス無しのイオンビーム運動の計算結果については参考文献の結果に一致することが確認できた。これにHeガスを導入した場合の計算モデルを組み込むことで原理的なイオンビーム運動シミュレーションが計算できる。さらに3次元計算電場を導入し詳細なシミュレーション計算を行うことによってFrイオンに最適化したRFQD設計が可能となる状況となる。
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今後の研究の推進方策 |
大強度・高エネルギー(~10MeV/u)ビームの4次元エミッタンス測定器開発については、2021年度のビーム照射テスト結果解析から得られた課題を分析することにより次回のビーム照射テスト計画を考案する。同時にエミッタンス測定器の小型カメラ及び望遠レンズ光学系を完成させる。さらにカメラの放射線からの遮蔽材の敷設、遠隔制御を導入しビーム照射テストを行い、エミッタンス測定結果が得られるようにする。そして大強度ビームのエミッタンス測定テストを行い、測定器が耐えることのできるビームパワー上限を判断し、実用化を進める。一方、高周波四重極線形減速装置(RFQD)については、RFQDの移送作業時期を注視しつつ、RFQDの移設後は本体の組み立てを行い動作テストを進める。動作テストの完了後はテスト用イオン(ルビジウムなど)を用いた性能評価により改良点を明確にする。またFrイオンに最適化したRFQD設計のためのビーム運動シミュレーションを進める。現状は原理的な計算を進めており、それが完了したならばRFQDの形状を完全に再現した3次元電場を導入し、イオンビーム運動細部までの計算も試みることにより、生成したFrを引き出すイオン源からRFQDへの適合性、またRFQDの下流に存する中性化装置への適合性を考慮して、RFQDの改良または新造の検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
高周波四重極線形減速装置(RFQD)の開発に多額の資金を投入することにしている。2021年度はRFQD移設が見込まれたので、まず納期が3,4ヶ月と長い真空排気ポンプを手配し購入した。それ以外についてはRFQD移設後の組み立て作業と並行し、必要物品を検討しながら予算を使用する計画である。
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