AlCu合金、CuTi合金について、高エネルギー荷電粒子ビーム(イオンビーム、電子ビーム)照射による原子配列変化と硬度、電気伝導度制御の研究を実施した。令和2,3年度にはAl合金を対象とした研究を行った。室温におけるイオン照射によって、Al合金の硬度は短時間で大きく増加した。硬度増加の原因は、放射光EXAF測定により観測された照射による微細なCu析出物生成であると結論した。一方、Al合金を低温(160K)でイオン照射した場合、硬度の変化は見られなかった。160Kでは原子空孔の拡散はほとんど起こらないので、この結果は、Al合金における硬度増加は、原子空孔による照射促進拡散がCu原子の析出をもたらした結果であることを示す。Al合金を電子線照射した場合は、100℃以下における照射では硬度の変化は見られず、125℃以上の照射温度で硬度増加がみられた。電子線照射の場合、格子欠陥生成率がイオン照射と比べて格段に小さいため、Cuの析出を起こすには、試料温度を上げて空孔の熱拡散を高めてやる必要があることが分かった。令和4年度からは、CuTi合金における研究を実施した。CuTi合金を260℃で電子線照射することにより、電気伝導度、硬度、ともに短時間で増加した。電子顕微鏡で観察したところ、Tiリッチな微細析出物の生成が見られた。この現象は、Tiリッチ析出物生成によりCuマトリックスのTi濃度が低下したこと、および、Cu析出物により転位の動きが阻害されたことで説明できる。最終年度は、補足実験を行うとともに、これまでに得られた結果をもとに、粒子切断機構を用いた解析を行い、CuTi合金の照射による電気伝導度と硬度変化の相関を説明した。以上の稀薄合金における結果と比較するため、高濃度合金におけるイオン照射実験を合わせて行った。本研究における成果は、学会で発表するとともに論文にまとめた。
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