研究実績の概要 |
本研究は、赤外線波長域で高出力発振するテラヘルツ自由電子レーザーを用いてアミロイド線維を分解し、アミロイドーシス疾患治療の開発に応用することが目的である。2020~2021年度までの研究では、リゾチーム及びβ2ミクログロブリンのアミロイド線維に対してテラヘルツ自由電子レーザー照射実験を実施した。走査型電子顕微鏡、X線小角散乱法を用いた解析により波長56マイクロメートルでの照射により、リゾチームとβ2ミクログロブリン共に、βシート構造が減り、αヘリックスが増大したことが判明した(発表論文:日本赤外線学会誌Vol.31, No.2, 2022年,pp52-59)。さらに平衡理論に基づく分子シミュレーションを実施した結果、βシートからαヘリックスへの変換反応にはペプチド構造内部のアスパラギン残基が関与する水素結合の極端な減少が予測された。これによりアミロイド線維の形成にはアスパラギン残基が重要であることが示された(J. Synchrotron Rad., 29, 1133-1140, 2022)。 2022年度では、波長720マイクロメートルの遠赤外線を出すことのできるジャイロトロンをアミロイド線維に照射すると線維化反応が促進されるという興味深い現象を明らかにした(発表論文:Biomolecules, 12(9), 1326 ,2022)。アミロイド線維と類似の構造を有するセルロースもサブミリ波の照射により凝集構造が増大することが放射光顕微赤外分光法によって示された。テラヘルツ波の波長を組み合わせて照射すれば生体高分子の凝集構造を解離させたり再会合させたりできるリサイクル技術の開発が期待される。
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