研究課題
物質中にμ+粒子を打ち込むことで生成されるミュオニウム(Mu)欠陥は、孤立した水素欠陥の電子状態を高い精度で模擬する。このMu欠陥の電子状態はミュエスアール法により解析可能である。しかし、超微細結合が弱い常磁性Mu欠陥については、この標準的手法により得られる情報だけでは電子軌道状態の特定が困難な場合が多く存在する。本研究は、Mu欠陥の軌道状態を反映する電子のg値を直接求める手段として「電子スピン共鳴ミュエスアール法」を提案し、実証実験を通してMu欠陥研究における新たな標準手法としての確立を目指すものである。研究計画は(1)高周波ミュエスアールプローブの開発、(2)ミュオンビームを用いた実証実験とチタン酸化物中の常磁性Mu欠陥の研究への応用、という2段階から成る。(1)高周波ミュエスアールプローブの製作は初年度に完了し、使用を想定する帯域において良好な周波数特性が得られていることをS11反射係数の測定により確認した。令和3年度は、この高周波ミュエスアールプローブを用いて、(2)ルチルTiO2中の常磁性Mu欠陥に対する電子スピン共鳴ミュエスアール実験をJ-PARC物質・生命科学実験施設S1エリアにおいて実施した。共鳴周波数を60.0 MHzに設定し磁場掃引モードで実験を行ったところ、2.18 mT付近において明確な共鳴信号を観測し、gテンソルのc軸に垂直な成分が孤立電子に対する値から僅かではあるが確実に減少していることを明らかにした。最終年度はデータ解析をさらに進め、横磁場条件だけでなく縦磁場条件においても電子スピン共鳴が検出され得ることを新たに明らかにした。これにより、gテンソルのc軸に垂直な成分と平行な成分の両方が得られたことになり、異方性の観点からもMu欠陥とH欠陥の比較が可能になった。
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