研究課題
本研究では、レーザー逆コンプトン散乱施設において得られる、単一エネルギー偏光光子を用いて、光子と標的核との核反応に よる二次粒子の生成機構について実験的研究を行う。この実験で得られるデータは、医学・理学・工学で用いられている数10 MeVの電子加速器に対する遮蔽設計において必要である。本研究では、光子の偏光の影響を受ける成分と受けない成分を分離して、エネルギーと角度分布を広範に測定し、系統的データを得る。光子の核反応モデルの改良を行い、電子加速器施設に対する遮蔽設計の高度化をはかる。研究計画では(1)実験データの取得、(2)核反応モデルの開発 、(3)偏光による影響の評価、について行うこととしている。今年度はNewSUBARU加速器の改造終了を待って、Covid19の感染拡大状況を勘案し、ビーム実験を実施した。ビーム実験では、実験手法の再確認を行うとともに、17MeV光子入射に対する重核ターゲットのデータを新規に取得した。また、昨年度とりまとめたコンクリート透過による線量の減衰計算におけるエネルギー分布の違いの影響をまとめ、遮蔽国際会議の発表を申し込み採択された。また、入射エネルギー依存性、角度分布の考察についてもとりまとめ科学と技術のための核データ国際会議の発表を申しこみ採択された。昨年度とりまとめた、予備実験のデータに対する論文が日本原子力学会核データ部会奨励賞を受賞した。
2: おおむね順調に進展している
2018年度では、実験データに基づき、1本の学術誌投稿論文と1本の紀要論文、1回の国際学会発表(受理されたが延期)、4回の国内学会と研究会での発表を行っ た。学術誌投稿論文は6つのターゲットについて、世界初の光核反応中性子の二重微分断面積を与えたものである。この数値データをIAEAの原子核実験データ ベースに登録するとともに、ホームページによりダウンロードを可能にした。また、この実験データと汎用放射線輸送コード、核反応データライブラリ、励起子 モデルを用いた統計崩壊計算の3つと比較を行い、その相違点を明らかにし、中性子エネルギー分布の再現に前平衡過程が重要であること、古典論に基づくモデ ルでは角度分布の再現ができないことを示すことができた。そして応用面においても、実験結果の知見がコンクリート透過後線量において大きな寄与をする可能 性を明らかにした。以上の成果は開始初年度において計画以上のものである。2019年度では、NewSUBARU加速器の改造終了を待って、Covid19の感染拡大状況を勘案し、実験を実施することが出来た。実験では手法を再確認することと、新たなデータの所得ができた。データは現在解析中である。また、これまでのデータをまとめ、国際会議での発表を申し込み、受理された。昨年度投稿した6つのターゲットについて、世界初の光核反応中性子の二重微分断面積を与えた学術誌投稿論文は、日本原子力学会核データ部会奨励賞を受賞した。
(1)実験データの取得 入射光子エネルギーを測 定実績のある17 MeVに加え、各標的核が最も大きな断面積を与えるエネルギーにとって、入射光子と標的核の核反応により放出される中性子のエネルギー・角度 分布の、入射光子の偏光、標的核の重さ、入射光子のエネルギー、に対する系統的な 実験データを取得する。(2)核反応モデルの開発 (1)で取得した実験データを元に、偏光による影響を受ける成分と、単純な脱励起モデルにより記述できる成分に 分離し、標的核の重さ と入射光子のエネルギーの依存性を、標的核の原子核構造を参考にして、統一的に記述する。この記述をもちいて核反応 モデルを開発し、既存の放射線輸送 コードに組み込まれている脱励起モデルに加えて組み込む。(3)偏光による影響の評価 (2)で開発した核反応モデルを組み込んだ放射線輸送コードを用いて、医学・理学・工学の分野で広く用いられ ている数10 MeVまで の電子加速器での放射線・放射能の生成の計算をおこなう。これまでに得られている実測データを用い、予測精度の向上 について確認する。
Covid-19の感染拡大の影響により、国際学会が延期されたため。延期された国際学会は2022年度に実施される。また、使用予定の施設の改造により1回分の実験が未実施であるが、これも2022年度に予定された実験とともに実施予定である。
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Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment
巻: 989 ページ: 164965~164965
10.1016/j.nima.2020.164965