研究課題/領域番号 |
20K12490
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
初川 雄一 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 専門業務員(任常) (40343917)
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研究分担者 |
株木 重人 東海大学, 医学部, 講師 (00402777)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | テクネチウム同位体 / コンプトンカメラ / Tc-95, Tc-96 / シスプラチン化合物 / Pt-191 / ETCC / ナノ粒子ターゲット |
研究実績の概要 |
Tc-99mの代替としてTc-95(半減期20時間)のETCC撮像実験のために、タンデム加速器により濃縮モリブデン‐95ターゲットに陽子照射によりTc-95の生成条件の最適化条件を探った。 また効率よくテクネチウム同位体からのガンマ線を検出し高い位置分解能を得るために電子飛跡検出型ガンマ線コンプトンカメラ(Electron Tracking Compton Camera)のETCC検出器の改善をおこなった。また本研究の概要及び展望に関して臨床核医学誌へ投稿した。 本研究においてテクネチウム以外の新たな対象核種としてPt-191の検討を開始した。白金化合物であるシスプラチン((NH3)2PtCl2)は抗がん剤として長い歴史を有しているのみならず、新たながん治療法である標的抗がん剤との多剤治療においても良好な結果をもたらしており依然として利用され続けている。そこでPt-191を生成しETCC撮像実験への試験的研究を開始した。 白金は抗がん剤として多く用いられているシスプラチンの主要構成元素である。シスプラチンは抗がん剤として長年活用されているが、腎不全を惹起するために腎臓への負担を軽減する化合物の研究が進められている。Pt-191はイリジウムターゲットを陽子照射することにより得た。しかしながらイリジウムからPt-191を分離するには王水のような強酸での溶解過程が必要であり、その後の分離操作にも多くの困難が伴う。そのため、本研究ではイリジウムターゲットにナノ粒子を用いて核反応による反跳作用によりナノ粒子ターゲットより飛び出した生成核種であるPt-191イオンを塩化カリウム中で捕捉し、これから迅速にPt-191標識シスプラチン化合物を合成に成功した。今後シスプラチン化合物の生体内動体研究をETCC撮像で追跡することにより、新規シスプラチン化合物開発への貢献を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020-2021年度における本研究の進捗状況はコロナ禍における移動制限のためにやや遅滞しているといえる。本研究では濃縮モリブデン95の陽子照射によりTc-95の生成条件の最適化を行うことが出来た。その後の分離精製過程を確立し、Tc-95標識過テクネチウム酸溶液の供給が可能になった。研究計画では研究代表の初川が所属するタンデム加速器施設において放射性同位体の生成実験を行い、照射ターゲットからTc-95を分離精製しコンプトンカメラ撮像実験を行うために京都薬科大学へ輸送する予定であった。しかしコンプトンカメラ(ETCC)を研究分担者の在籍する東海大学・相模原キャンパスから京都薬科大への移動が緊急事態のため行うことが出来なくなった。このため分担者は独立でETCCの開発研究を行い、移動が可能になったときにTc-95の撮像実験に備えた。 新しい核種への取り組みとしてPt-191標識シスプラチン化合物の合成を開始した。Pt-191は539keVのガンマ線を放出しコンプトンカメラ撮像には適している。 Pt-191はIrナノ粒子をターゲットとして陽子照射によって生成する。核反応の反跳によりイリジウムターゲットから飛び出し塩化カリウム中に捕捉された、Ptイオンから白金塩化物の生成を試みた。13MeVの陽子ビームの照射による反跳により約4%のPt-191イオンが分離できることを確認した。 塩化カリウム中に捕捉されたPt-191イオンをH2PtCl6・6H2Oをトレーサーとして共沈させ、二塩化ヒドラジニウムで還元することにより30kBq/mgのPt-191標識K2PtCl4を得ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の収束を待ってTc-95,Tc-96及びTc-95mをトレーサーとしたコンプトンカメラ撮像実験を行う。 テクネチウム同位体を市販の標識キットの利用により標識化合物による動物実験を行い、従前のTc-95(或はTc-96)-ETCCの撮像結果とTc-99m-SPECT画像との比較を行う。Tc-95,Tc-96 を抗体標識に関する研究をおこなう。抗体標識の第一歩として大環状キレート剤への標識実験を開始する。 またETCCを用いたPt-191によるシスプラチン化合物の動態研究を目指した基礎研究として高速液体クロマトグラフィー法などによる化合物の同定、比放射能の高度化等を行い、動物実験に備える。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍での移動制限のためコンプトンカメラの移動ができなくなり、コンプトン撮像実験が延期されてしまい、それに伴い実験の縮小、旅費の未執行が生じたために次年度使用額が生じた。繰り越した資金を用いてCdZnTe半導体検出器を購入予定である。これによりガンマ線分光により化合物の分離・精製過程における目的核種の動態把握が容易になり研究を効率よく進展できるようになることが期待できる。
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