本研究で開発した4象限検出器は放射光利用の軟X線MCD顕微鏡に設置するものであり、安定稼働後には一般のユーザーの利用実験でも活用していくことを予定している。この軟X線MCD顕微鏡は2022年に3GeV高輝度放射光施設ナノテラスに移設し、運用を開始した。同施設の高輝度の軟X線ビームを利用することで、2022年度と比較して数10倍以上の信号強度にて測定が可能となることが期待される。 本年度はこのためのビームラインの立ち上げ、ビームラインの光軸調整、軟X線MCD顕微鏡の組立て、フレネルゾーンプレートの集光調整を実施した。さらに、磁場中では磁性材料の表面の磁化状態が、面内磁化から面直磁化へ、あるいはその逆へと変化が起こることが予想される。これを可視化して捉えることのできるように、外部磁場となる超伝導マグネットの設置、アライメントおよび軟X線MCD顕微鏡との連結作業を行った。また、入射光エネルギーを変えながら測定できるようにビームラインの分光器などと連動してデータ取得できるソフトウェア群も作成した。以上の取り組みによって、高輝度軟X線の準備および軟X線MCD顕微鏡の立ち上げに約一年を費やしたが、本研究の微小な信号から表面形状を描き出す手法や磁化変化の僅かな信号をとらえるには軟X線MCD顕微鏡の移設は避けられない工程であった。今後、放射光実験を再開し、本研究手法のユーザー利用を促進し、さらなる展開を図っていく。
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