研究課題/領域番号 |
20K12494
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂上 和之 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 主幹研究員 (80546333)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 軟X線レーザー / レーザー加工 / 光・物質相互作用 |
研究実績の概要 |
半導体プロセスの微細化・複雑化にけん引され、微細な加工のニーズが高まっている。レーザー加工においては、特に切削加工等では加工が難しい材料への適用が検討され始めている。本研究課題では、従来より微細な直接レーザー加工を可能とするとともに、多くの物質において非常によく吸収され、エネルギーを投入することができる軟X線レーザーによる加工に取り組む。軟X線レーザーによる加工はいまだ前例が少ないため、直接微細加工の実現性の確認とその加工における物理過程を明らかにすることを目的としている。特に、軟X線領域においては、物質の内殻電子による吸収が存在するため、その影響に関して明らかにすることによって、将来のレーザー微細加工に向けた土壌を形成する。本年度は軟X線自由電子レーザーを用いた精密加工及びその加工プロセスに対する理解の向上に努めた。軟X線自由電子レーザー施設SACLAを用いて、特に100eV近傍に吸収端を持つシリコンを対象に研究を実施した。回転楕円集光ミラーを用いて1マイクロメートル以下に集光した軟X線レーザーで加工を実施することによって、サブマイクロメートルの微細加工が実現できることを確認した。また、シリコンの内殻電子の光吸収端の上下にあたる92eVと120eVでの加工の違いに関して観察し、議論を深めた。光エネルギーの違いによる加工形状等の差異を確認するとともに、光強度の違いによっても優位な差を観測できており、光加工における様々なパラメータによる寄与を包括的に議論するべく、研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軟X線レーザーによる加工・物質改変のプロセス理解のため、本年度は軟X線自由電子レーザー(SACLA-BL1)を主に用いて研究を遂行した。加工の対象としては、100eVに吸収端を持つシリコン及びそれを含む化合物として、ガラスを対象とした。それぞれシリコンの吸収端のエネルギーの前後にあたる92eV及び120eVの光子エネルギーのレーザーを用いて加工を行い、その加工形状や加工性等の変化を調査した。軟X線の集光特性として、回転楕円ミラーを用いることによって1マイクロメートルを切るサブミクロン集光を実現し、これを用いることでサブマイクロメートルの直接レーザー加工に成功した。加工特性としては、吸収端前後における急激な吸収長の変化を反映し、特に深さ方向の加工性に大きな差異を確認した。また、加工穴の底面の形状にも差異が見られた。光のエネルギーの差以外においても光強度に依存して、溶けたような形状から剥がれたような形状へと変化が見られ、物質が脱離するプロセスが異なることが電子顕微鏡による観察によって明らかになっている。今後詳しい加工プロセスや様々なパラメータに対する依存に関して検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、自由電子レーザーのビームタイムが一度延期となったが、この間に実施する研究の計画を熟考することによって効率的に延期されたビームタイムを利用したため、計画への影響は軽微であった。当初計画通りに研究を実施していく。引き続き、自由電子レーザー、高次高調波光源、近赤外フェムト秒レーザー等を用いて、軟X線領域の波長のレーザー加工現象の理解に取り組む。吸収端前後における加工プロセスの変化を観察するために、光強度などの他のパラメータによる寄与を明確化し、軟X線特有の内殻電子の影響のみを抽出できるように実験・検討を進める。特に、透過型電子顕微鏡を用いた結晶構造の解析による知見が有用そうであることから、様々なパラメータにおける加工痕の観察を進める予定である。まずは知見を多く蓄積しているシリコンの吸収端(100eV)を重点的に調査するが、アルミニウムの吸収端(72eV)に関しても試験を開始する予定である。
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