研究課題/領域番号 |
20K12504
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大隅 寛幸 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 専任研究員 (90360825)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 走査型X線顕微鏡 / ブラインド・デコンボリューション / マルチフレーム超解像 |
研究実績の概要 |
近年のX線集光技術の進歩により、光学顕微鏡の空間分解能を遥かに超える走査型X線顕微鏡が利用できるようになったものの、装置が大掛かりかつ複雑なために種々の要因で 観察像が歪み、空間分解能が劣化してしまう問題に直面している。昨年度は、隣り合う測定スポットを過剰にオーバーラップさせ取得した走査像に対して適用するマルチフレーム超解像処理として、フレーム毎の入射ビーム強度補正とデコンボリューション処理を実現し、復元画像の空間分解能を向上させることに成功した。今年度は、試料上のビーム照射位置のドリフトを補正するための技術開発を行った。具体的には、隣り合う測定スポットが過剰にオーバーラップしていることを利用し、デコンボリューション処理により推定された既測定スポットに対する原画像から、次測定スポットの予測値をビームプロファイルを再コンボリューションすることにより算出し、その後実際に測定された値との間の零平均正規化相互相関を指標としてドリフト量を評価する方法を開発した。これにより、変位センサーを使用することなく観察像からドリフト量を評価することが可能となり、試料の加熱冷却操作に伴う試料保持機構の膨張収縮による試料上のビーム照射位置のドリフト補正を実現する技術的見通しが立った。さらに、試料を加熱昇温させて走査顕微観察を行う環境を構築した。これら整備されたハードウェアやソフトウェアを既存の走査型X線顕微観察技術と組み合わせることで、相転移に伴い出現する磁区などの物質機能に直結するメゾスコピック構造の高分解能観察が実現される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、試料の加熱冷却操作に伴う試料保持機構の膨張収縮が、試料上のビーム照射位置をドリフトさせ、走査顕微観察像の空間分解能を劣化させる問題に対処するための、デコンボリューション処理による温度ドリフト補正技術の開発を行い、磁気イメージングに適用することを計画していた。実際に、デコンボリューション処理により推定された原画像からの予測値に対する、実測値の零平均正規化相互相関を指標としてドリフト量を評価する手法を開発し、温度ドリフト補正を実現する技術的見通しが立った。さらに、試料を加熱昇温させて磁区の走査顕微観察像を測定し、温度ドリフトの影響を含む実測データを用いた計算機シミュレーションにより、実装に向けてデコンボリューション処理の高速化や最適化を進めることができた。放射光実験のビームタイムが限られているため、温度ドリフト補正を適用して空間分解能の劣化を抑制した磁区の走査顕微観察像の取得までには至っていないことから、進捗はやや遅れ気味ではあるが、研究計画の大幅な見直しは必要ないと自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、温度ドリフト補正を適用して空間分解能の劣化を抑制した磁区の走査顕微観察像の取得を早い段階で実現する。次に、実装が完了した走査顕微測定技術を、Bragg反射強度円偏光反転比測定に適用して、高空間分解能な磁区の暗視野イメージングに取り組む予定である。さらに、暗視野像をX線の波長もしくはBragg反射の指数を変えて多重測定することにより、深さ方向分解して3次元再構成可能なデータセットを構成できることに着目し、試料中に埋もれた磁区構造の可視化技術へと発展させることにも取り組む。遷移金属酸化物等を対象としたメゾスコピックな物質構造科学研究を通して、開発した走査型硬X線顕微鏡の高分解能化技術の有効性を例証することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地開催となっていた学会がオンライン開催に変更され旅費が発生しなかった。試料ホルダーの製作費として使用する。
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