X線集光技術の進歩により、光学顕微鏡の空間分解能を遥かに超える走査型X線顕微鏡が利用できるようになってきたが、装置が大掛かりかつ複雑なため種々の要因で観察像が歪み、空間分解能が劣化してしまうことが問題になっている。そのような状況を受け、隣り合う測定点におけるビームフットプリントを過剰にオーバーラップさせ取得した走査像に対して適用する、統計的推定に基づいた入射ビーム強度補正処理とデコンボリューション処理の手法開発に昨年度まで取り組み、観察像の空間分解能を向上させることに成功した。今年度は、物質構造科学研究に必要な温度可変環境下での高分解能イメージングを実現するために、温度ドリフト補正の手法開発に取り組んだ。具体的には、既測定データから復元した原画像を再度順投影して得た未測定位置の予測データと、その後実際に測定されたデータとの間の零平均正規化相互相関を指標としてドリフト量を評価し、必要な補正を施して空間分解能の劣化を抑制する処理を開発した。この処理を、加熱昇温下で取得した永久磁石材料の磁区観察像に適用し、熱消磁過程の可視化研究に活用可能であることを示した。本研究において高度情報処理技術と計測技術の融合に取り組んだことにより、入射ビーム強度および照射位置モニターに関する走査型X線顕微観察装置のハードウェア的限界を超えた空間分解能での、エネルギー問題や環境問題に資するメゾスコピックな物質構造科学研究が可能となった。
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