研究課題/領域番号 |
20K12506
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山脇 正人 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (30526471)
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研究分担者 |
小林 慶規 早稲田大学, 理工学術院総合研究所(理工学研究所), 客員上級研究員(研究院客員教授) (90357012)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 陽電子寿命 / ΔT0法 / 金属疲労 / 短時間測定 / アンチコインシデンス法 / デュアルアクイジション法 |
研究実績の概要 |
陽電子寿命測定による金属や半導体中の欠陥測定では、欠陥濃度がおよそ100 ppm以上で陽電子寿命が平衡状態に達してしまうことから、高欠陥濃度の評価に課題があった。そこで陽電子寿命スペクトルのフィッティンッグ解析の際に得られる寿命スペクトルの時間軸の起点(T0)のシフト(ΔT0)を用いて、高濃度の欠陥状態を簡便に評価する方法(ΔT0法)の開発を進めた。ΔT0法ではT0を高精度に測定する必要があるが、我々のこれまでの研究で開発したアンチコインシデンス法とデュアルアクイジション法を用いればT0を高精度に測定することができ、ΔT0法を実現することができる。 オンサイトの陽電子寿命測定を行う場合、アンチコインシデンスを行う陽電子検出器を薄い金属フィルム等で遮光する必要がある。しかし、金属フィルム等で消滅した陽電子はノイズとしてΔT0法の精度を劣化させる。そのため、金属フィルム等は可能な限り薄く、かつ遮光性及び物理的強度を有していなければならない。 そこで本年度は、そこで陽電子検出器の遮光方法について検討した。陽電子検出器の遮光にAl蒸着したカプトンフィルムとプラスチックシンチレータを採用した。Al蒸着厚は500 nm以上としても、ピンホールと思われる影響で十分な遮光性を得ることができなかった。そこでカプトンフィルムの両面にAl蒸着を行うことにより、Al蒸着を200 nm厚(両面に100 nm厚)でも十分な遮光性を得ることができた。本技術はAl蒸着厚を薄くすることができることから、ΔT0法の精度の劣化を抑えることができる。本技術を用いた装置を用いて、ショットピーニングしたステンレス鋼を評価したところ、ショットピーニングによる欠陥密度の上昇による陽電子寿命の変化を捉えることができ、本技術の有用性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試料を切り出すことなく陽電子寿命測定が行えるアンチコインシデンス法を応用して、インフラ構造物のオンサイト測定のための小型軽量ポータブル陽電子寿命測定装置を開発し、取りまとめた成果を論文に投稿し、受理された。Equipmentの小型軽量化のため、ガンマ線検出器に小型の光電子増倍管を、陽電子検出器の遮光にAl蒸着したカプトンフィルムとプラスチックシンチレータを、それぞれ、採用した。検出器のジオメトリの最適化により、検出器の小型化に伴う計数率の減少を、卓上型陽電子寿命測定装置の計数率の約35 %に抑えた。ショットピーニングしたステンレス鋼を用いて、開発した装置の性能を評価したところ、ショットピーニングによる欠陥密度の上昇による陽電子寿命の変化を捉えることができ、本装置の有用性を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
陽電子寿命スペクトルの超高精度ΔT0計測システム(ΔT0法)を用いたステンレス鋼の金属疲労研究を行う。次に、純鉄や鉄鋼やショットピーニング処理したステンレス鋼等の研究へと展開し、疲労限界に近い領域(N/Nf > 0.5)でΔT0法による欠陥分析が種々の材料で有効であることを実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、研究成果公開として投稿した論文が受理されたものの掲載まで至らなかったことがあげられる。既に掲載は確定していることから次年度に予算使用する計画である。
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