研究課題/領域番号 |
20K12507
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
安森 亮雄 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (20456263)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地域素材 / 石材 / 凝灰岩 / 大谷石 / 房州石 / 伊豆石 / 産業 / 都市間ネットワーク |
研究実績の概要 |
地域素材としての石材は、地産地消の結びつきが強く、火山国である我が国では凝灰岩が全国で産出し、蔵や、納屋、台所周りなどの生活に即した用途に使用されてきた。本研究は、凝灰岩が産出しその建築が建ち並ぶ〈石のまち〉を対象として、建築・産業・景観を包括する石材の連関による環境デザインの特質を明らかにするものである。 令和2年度は初年度として、まず調査対象となる〈石のまち〉の概要を整理し、関東近県を中心に把握した。コロナ禍の移動制限による実地調査の制約をふまえ、入手済の各都市の概要、石材サンプル、石蔵等の写真や文献を活用し、オンラインでの研究交流も行った。対象地は計画通り、大谷石(栃木県)、房州石(千葉県)、伊豆石(静岡県)の3都市とした。大谷石については、日本遺産大谷石文化学の委員として、石蔵以外の用途も含めた建物について論考を進めた。また、伊豆石と大谷石の比較について、オンラインシンポジウムにコメンテーターとして参加し、伊豆石文化探究会を中心とする研究者と交流し、産地と消費地の関係、石蔵の構法、配置等を比較検討した。 これらの検討から、関東近県では、東京・横浜を消費地とし、まず、舟運によって房州石や伊豆石が隆盛し、次に、陸路によって大谷石が発展した経緯、また、高度な手掘りの技術が明治期に伊豆から大谷に伝わり、昭和30年代に大谷で開発された機械掘りが各地へ技術伝播した経緯といった、「都市間ネットワーク」の歴史的側面を把握した。また、石材サンプルから、色調や質感等の材料的側面を比較し、大谷石における「張石」と「積石」の蔵や納屋、伊豆石の「木骨積石」による蔵などの構法的・用途的側面の特徴を把握した。これらは、これまで各都市内で捉えられてきた石材と産業の横断的な比較として有意義であり、その第一段階として、関東近県における素材の都市間ネットワークの一端を明らかにしたものとして重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の計画である各地の〈石のまち〉の概要、特に関東近県の把握について、コロナ禍の移動制限により実地調査がやや遅れているが、すでに入手している資料やオンライン環境も活用して進めることができた。 初年度の成果として、大谷石については、日本遺産大谷石文化学の委員として検討を進め、特に石蔵以外の用途に視野を広げた論考を発表した。まず、栃木県宇都宮市における酒蔵やタバコ乾燥小屋、群馬県桐生市における大谷石造のノコギリ屋根工場といった産業建築を、各地の産業発展の中で捉える視座を示した。また、戦後復興期における公共文化施設について、大谷石の素材特性から近代建築の地域化を捉える視座を示した。 さらに、大谷石(栃木県)、房州石(千葉県)、伊豆石(静岡県)の比較に着手し、(1)採掘・運搬と石切場、(2)石の材質、(3)石造建築、(4)活用とまちづくりの4つの観点から整理した。このうち、大谷石と伊豆石の比較については、伊豆石文化探究会の研究者と交流しオンラインシンポジウムで発表した。また、3都市の比較については、日本遺産大谷石文化学において論考を発表し、令和3年度の日本建築学会大会学術講演でも発表予定である。 これらの成果から、いくつかの観点が浮き彫りになった。まず、石材の産地と消費地の関係として、大谷石が陸路で運ばれ群馬県桐生市の織物産業のノコギリ屋根工場(積石)となったこと、伊豆石が海路で運ばれ浜松市等の商家の石蔵(木骨積石)となったこと等、産地だけでなく、石材産業と近隣の消費地の産業発展との同時期の関係性である。次に、石造建築の用途として、産地に多い石蔵だけでなく、工場等の産業建築を含めた類型(タイポロジー)の広がりである。さらに、大谷石の「積石」と「張石」、伊豆石の「木骨積石」といった構法の特徴である。次年度以降はこれらの観点を深め、各地の〈石のまち〉の実地調査を進める。
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今後の研究の推進方策 |
2年目として〈石のまち〉の実地調査を予定し、コロナ禍の移動制限を勘案して調査地を厳選して実施する。1年目に概要把握した関東近県の伊豆石(静岡県)と房州石(千葉県)、東北地方は1箇所に絞り石蔵の多い国見石(福島県)、また中国地方は現在採掘中の来待石(島根県)を候補とする。 伊豆石については、「木骨積石」の構法が多く、大谷石の「張石」(木造)と「積石」(石造)の中間として考えられることから、構法の解明を進める(建築的視点)。また、石蔵が集積する浜松等は、天竜川の木材集積地かつ東海道の宿場町であったことも踏まえて検討する(産業的視点、景観的視点)。 房州石については、東京・横浜に出荷され現地の石造建築は少ないが、残存する石蔵を調査し(建築的視点)、石塀も含めた町並みについても検討する(景観的視点)。 国見石については、石蔵が集積する東北地方の代表的な〈石のまち〉と考えられ、町並みを含めて大谷石と比較する(建築的視点、景観的視点)。また、採石終了した石切場についても把握する(産業的視点)。 来待石については、棟石に使われるという他都市にない特徴があり、建築部位との関わりを検討する(建築的視点)。また各地の鳥居等にも使われたことから、消費地との関連や、採掘中の石切場についても把握する(産業的視点)。 以上により、産業・建築・景観を横断する石材連関について、研究を深化させる。各地の実地調査では、1年目に導入した機材を活用し、ドローンによる空撮や360度撮影等のICT活用による記録を行うとともに、現地の研究者との交流を重視して調査地を選定し、研究ネットワークの構築も進める。また、初年度の成果である関東近県の都市間ネットワーク、産業建築である大谷石のタバコ乾燥小屋について、日本建築学会大会学術講演で発表予定、大谷石の近代建築と石蔵等の比較についてdocomomo国際会議で発表予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
基金助成金における次年度への少額の繰越であり、翌年度分のその他経費等と一体的に使用予定である。
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