研究課題/領域番号 |
20K12520
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
鈴木 利友 武庫川女子大学, 建築学部, 教授 (10388803)
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研究分担者 |
飯塚 公藤 愛知大学, 地域政策学部, 准教授 (10516397)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 透視投影 / 円筒投影 / 球面投影 / GIS / 地形 / 極小曲面 / Bonnet族 / Duporcq曲線 |
研究実績の概要 |
2020年度は,下記のA)~C)の研究を行った。 A) 建築物や庭園等においてみられる,人を包み込むような大スケールの景観(没入型景観)を内側から眺める場合には,一般に形の恒常性が保たれなくなると考えられる。そこで,形の恒常性が保たれない投影法として,透視投影に加え,人の頭部運動との関係がより強いと考えられる円筒投影,および眼球運動との関係がより強いと考えられる球面投影に着目し,これらの投影により得られる透視図,円柱透視図,球面透視図の相互関係を求めた。その結果,地平線と,視心を通る鉛直線を共有する透視図,円柱透視図,球面透視図の相互関係は,これら2軸上にない1点の相互関係がわかれば,すべて求まることを示した。 B) アイカメラを用いた実験に備え,アイカメラ一式を購入した。また,研究対象地域(実験場所)である愛知県北設楽郡豊根村を中心に,GISデータの入手・整備を実施した。具体的には,国土地理院の「基盤地図情報」をベースに,当該地域における建物・河川・水域・地形等のデータを整備・作成した。ArcGISを用いて2D地図のみならず,3D地図で可視化できるようにした。 C) 没入型景観を構成する大スケールの曲線の建築設計への応用を念頭に,膜構造建築物で一般的にみられる極小曲面を特徴づける曲線のうち,平面曲線となる曲率線に着目し,その定式化を試みた。その結果,極小曲面の曲率線となる平面曲線は,円,懸垂曲線,平面3次曲線,楕円Duporcq曲線,双曲線Duporcq曲線の5種類であることを示した。また,一人一人が異なる視点で参加し,相手の姿が見える状況で空間を共有可能な,マルチユーザー型仮想空間としての「オンラインアーキテクチャ」の実現と,それを活用した,曲線,曲面をもつ大規模建築の設計案の検討を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は当初,愛知県北設楽郡豊根村富山地区において,アイカメラを用いた実験の開始を予定していた。しかし,新型コロナウイルスの感染拡大に加え,令和2年7月豪雨により約3ヶ月間にわたって研究対象地域周辺のJR飯田線が不通になり,地域の日常生活に多大な影響が生じた状況では,実験開始を延期せざるを得なくなった。 その代わり,当初2021年度から開始を予定していた球面投影に関する研究に,前倒しで着手できた。また建築設計への応用を念頭に,膜構造建築物で一般的な極小曲面を特徴づける平面曲線について分析した結果,極小曲面の曲率線となる平面曲線について新たな知見を得られた。さらに、一人一人が異なる視点で参加し,相手の姿が見える状況で空間を共有可能な,マルチユーザー型仮想空間としての「オンラインアーキテクチャ」の実現と,それを活用した,曲線,曲面をもつ大規模建築の設計案の検討を試みた。 以上の研究進捗状況を総合すると,おおむね順調に進展している,と自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要のA)~C)に対応して,下記の通り考えている。 A) 形の恒常性が保たれない投影方法に関しては,人の視覚特性との関係性が深いと言われる双曲幾何への展開を目指すとともに,実曲線と投影曲線の相互関係への拡張の可能性も検討する。 B) アイカメラを用いた実験に関しては,新型コロナウイルスの感染拡大状況をみつつ,可能であれば実験を開始する。GISデータの整備に関しては,より詳細な地形データ(DEM)を用いた分析が望ましいため,微地形のようすを判読しやすいように,データの精度を高めていく。 C) 極小曲面の研究に関しては,今のところ研究対象が懸垂曲面,Enneper曲面,Bonnet族の極小曲面に限定されている。膜構造建築物でみられる極小曲面のうち特殊なものに限定されているため,より一般的な極小曲面への応用を目指す。「オンラインアーキテクチャ」に関しては、2021年度に日本建築学会の建築デザイン発表会での発表を予定しており,研究者のみならず,実務の最先端に携わる建築設計者の評価も得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大や令和2年7月豪雨の影響により,予定していた実験が延期になり,それにかかる経費が執行できなかった。経費の一部は、代わりに先行して行った研究にかかわる文献の購入費用,学会や講習会の参加費用に流用したが、残る50,480円が次年度使用額となった。次年度は,新型コロナウイルスの感染拡大状況をみつつ,可能な状況になれば実験を開始し,使用する予定である。
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