研究課題/領域番号 |
20K12520
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
鈴木 利友 武庫川女子大学, 建築学部, 教授 (10388803)
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研究分担者 |
飯塚 公藤 近畿大学, 総合社会学部, 准教授 (10516397)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熊谷家伝記 / 山並み / スカイライン / 注視 / GIS / 城郭石垣 / 反り曲線 / 写真測量 |
研究実績の概要 |
2021年度は,下記の1)2)の研究を行った。 1) 長野,愛知,静岡の3県にまたがり点在する山間集落は,南北朝時代の開郷以来の歴史が『熊谷家伝記』に詳細に記録されており,当時の日本人が理想とした住空間,景観を探る上で貴重な研究対象といえる。人がこの没入型景観を構成する曲線のどの部分に注視を向けるかを明らかにするため,愛知県北設楽郡豊根村富山地区内の3地点(字市原,大谷,中野甲)において,アイカメラを装着した被験者が山並みのスカイラインを観察する実験を開始した。また『熊谷家伝記』では,この3地点を指し示す地名として「市原」「大谷」「中之郷(中ノ郷)」が登場する。しかし,これらの地名は現在の集落名,字名と必ずしも同じ意味ではないことから,『熊谷家伝記(宮下本)』に登場するこれらの地名の意味を探り,分類を行った。さらに『富山村郷土史(1933年)』『佐久間発電所建設に伴う水没地域実態調査報告(1953年)』などの資料を入手するとともに,『全航空住宅地図帳(1973年)』や国土地理院の空中写真などを重ね合わせ,この地域の過去のGISデータの作成を進めた。 2) 没入型景観を構成する曲線との比較対象として,没入型ではない非没入型,鑑賞型の景観を構成する曲線,具体的には,国内で独自の発展をとげ,歴史的,美的価値が認められている城郭石垣の曲線に着目した。現在知られている3種類の石垣の設計法に基づき求められる反り曲線を表す数式を,奥行き,高さ,初期勾配をパラメータとする数式として再定義するとともに,初期勾配を下3分の1勾配(下部3分の1の引渡し勾配)に書き換えた場合の数式も示した。また,設計法による反り曲線の特性の相違を,オーバーハングしない条件などに着目して考察した。そして再定義した数式により生成される曲線を,彦根城石垣で行った写真測量の結果と比較し,再定義した数式の有効性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は,新型コロナウイルス感染拡大や豪雨災害の影響により前年度実施できなかったアイカメラを用いた実験を開始する予定であったが,再度の感染拡大の影響を受けて開始が10月になったため,当初の見込より1年以上遅れた。一方で,『熊谷家伝記(宮下本)』の分析により,文中に見られる地名と実験対象地点との関係が明らかになり,『熊谷家伝記』に立脚した本研究の意義が,当初予想していたよりも明確になった。さらに,没入型景観を構成する曲線との比較として,城郭石垣の設計法により求められる反り曲線の再定義と考察,彦根城における写真測量結果との比較を行い,数々の新たな知見を得られた。 以上の研究進捗状況を総合すると,おおむね順調に進展している,と自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1) アイカメラを用いた実験に関しては,新型コロナウイルスの感染状況をみつつ実験を継続し,事例数を増やすとともに,可能であれば分析に着手する。『熊谷家伝記』については,「宮下本」を改訂した「佐藤本」の分析も行い,両者の比較を行う。GISデータの整備に関しては,過去の地形図を用いて,その当時の地形データ(DEM)を作成し,微地形のようすを判読しやすいように,データの精度を高めていく。 2) 城郭石垣の反り曲線に関しては,現在は既往研究の定義に従い,設計法における石垣の段数を無限大にとることによって曲線を定式化している。しかし実際には石垣の段数は必ず有限であることから,有限性を保ったまま定式化することが可能かどうか検討する。さらに定式化した実曲線の,人の視覚特性を考慮した投影曲線(円筒投影や球面投影)への拡張の可能性も,可能であれば検討したい。 3) 2020年度に実施した極小曲面を構成する平面曲線の研究に関しては,より一般的な極小曲面への拡張を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け実験開始が遅れたため,それにかかる旅費,謝金等の経費のうち82,920円が2021年度中に執行できず,次年度使用額となった。次年度は,多くの実験データを取得するために,複数名の研究協力者による実験を行い,使用する予定である。
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