本研究の目的は、木材内部の染色法の確立である。最終年度に実施した研究の成果として、先行研究である「減圧加圧注入法」の検証実験を多くの樹種を対象に行い、樹種によって染色の可否や程度の差があること、同じ材でも芯材と辺材で染色の程度に差があること、また同じ樹種でも天然乾燥材と人工乾燥材で染色の程度に差があることが判明した。さらに、染色が最も容易な樹種の一つであるブナ(人工乾燥)については、染色できる木材サイズの拡大化を図り、本研究期間中にはサイズが35㎜×150㎜×700㎜の木材内部を一様に染色できた。椅子程度の家具制作が可能であり、一部の樹種に限られるが実用化に近づいたと考える。 研究期間の前半では、新たな染色法として「吸引染色法」と「加圧浸透染色法」を試行した。「吸引染色法」は減圧負荷によって木材内部に染料を吸引する方法であり、「加圧浸透染色法」は加圧負荷によって木口から染液を木材内部に強制的に浸透させる方法である。ともにある程度の成果はあったが、染色法として確立できず、また、成果のわりに木材を装置に装着する煩雑さが実用性に欠けており、方針を変更せざるを得なかった。研究期間後半では、さまざまな樹種に対し従来の「減圧加圧注入法」による染色の検証を分子量の小さな反応染料を用いて行った。常に開発や改善がされている化学染料に対し、現在における木材内部の染色状況を確認するためである。 研究期間全体を通じて分かったことは、木材は自然素材であり細胞の配列など組織の構造の違い、また乾燥方法の違いなどにより、染色の可否や程度が異なることである。「減圧加圧注入法」によって木材内部の染色を行う場合、全ての樹種や部位に対応できる方法は残念ながら確立することはできなかった。ただ、木質を見極めて染色に適した材を選択することで染色木材の実用化が可能であるということは判明した。
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