研究課題/領域番号 |
20K12527
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
清水 和洋 (清水泰博) 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (80345339)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 変わるものと変わらないもの / 地形,起伏 / 地割 / 石組 / 回遊と視対象 / シークエンス / ナラティブ / 歩行 |
研究実績の概要 |
昨年度(2021)も2020年度同様、COVID19流行の為に他府県への調査旅行の実行が大学の方針により難しくなった。更に調査対象としていた京都の調査対象寺院も一部が閉鎖状態となり調査が予定通りに進められていない。また同様に比較調査対象として行う予定であったイギリスの風景式庭園の調査も実現出来ていない状況である。 そのような状況の中で出来ることとして、東京都内の大名庭園(六義園、浜離宮庭園等)及び明治神宮及びその御苑や旧古河庭園などを、また鎌倉においては円覚寺、明月院、建長寺や、浄土式庭園としての瑞泉寺、永福寺跡等の調査を行った。その他文献調査は継続的に行っている。 東京の大名庭園を調査することは、江戸時代の東京が庭園都市であったことから、江戸時代以降現代までの庭園の変遷の歴史を知ることになり、変遷の中で何が残されてきたのか、その過程でどのような変化があったのかといったことが新たな興味の対象となった。また鎌倉は江戸時代同様に京都以外に政治の中心があった場所であり、鎌倉及び鎌倉時代は京都以外で最も庭園が作られたと思われる場所であり、そこに残る浄土式庭園調査では、平安時代に生まれた浄土式庭園のその後の発展の形として新たな発見をすることが出来た。この二箇所の調査は、京都を中心に発展してきた日本の庭園文化の歴史を補うことにもなり、今回調査対象としている京都の庭園と他地方の庭園が日本の庭園史の中でそれぞれどのような位置にあるのかを知る有効な調査である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査対象としては概要のところに書いたような理由により、2021年度は主な調査場所を東京都内とした。「周回移動」については六義園を中心に、「往復移動」については根津神社を中心に行っているが、「点在間移動」については適切な場所を東京で見つけられていない。上記の2箇所では年間それぞれ5、6回程度の調査を行ない、今はここで得た知見を他の場所(研究の主対象である京都)で再確認する予定としている。 六義園での「周回移動」の調査では、閉鎖感と開放感、視点場と視対象の拾い出しなどを行い、庭園を区切る一番大きな要素として、時代を経ても変わらないものとしての築山や地形の起伏の状況(地割)、池(園池)や遣水の位置を重視し、二番目の要素としては石組を位置付けている。樹木は年月の経過によって姿を変えるものであり、姿は常に変えながらも継続してきたものとして第三の要素(変わる要素)と位置付けている。今はそのような庭園の骨格となる要素を配した平面図のようなものを想定し、その中での視点場と視対象をプロットし、その中での双方向での歩行による回遊で庭園がどのように意識されるかを調査した。この作業を行うことにより、それぞれの庭園に意図された回遊の方向性が明確になってきたように思われる。 根津神社での「往復移動」については、直線状の歩みとその途上にある各種結界の通過、直角的な方向転換が特徴的であり、屈曲点の意味が重要であることが分かってきた。これは直線的な移動の中での空間のヒエラルキーの変化と屈曲の組み合わされた歩行体験である。上記は神社空間に多く見られるものであり、この空間構造が作り出している意味を調査対象地の各所で比較して研究していくつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
COVID19の終息がようやく感じられるようになってきた今年度は、京都を中心とした調査を本格的に再開するつもりである(今年2022年4/27から5/4は久し振りに京都及び奈良、和歌山での調査を行った)。ただこの2年間にかなりのブランクの期間があった為、今年度が研究最終年度ではあるが、次年度への研究の延長の必要性を感じている。 今後は「往復移動」及び「周回移動」については進捗状況のところに記したような方向性をベースにしながら当初の計画のように京都及び地方(伊勢、九州、東北)での調査をしていきたい。「点在間移動」については類似事例があまり東京にはなかったため、京都の対象地にて仮説を立て、それを元に調査の方向性を探っていくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた最も大きな理由は、COVID19(新型コロナウイル感染症)の流行で予定していた海外調査(イギリス風景式庭園調査)が実行出来なかったことであり、同様に国内調査もかなり制限せざるを得なかったことからである(旅費部分)。それによって使用機材の購入を次年度以降に見送った部分もあった(物品部分)。次年度(2022年度)についてもまだCOVID19の感染状況次第によっては海外調査は再延期する可能性もあるが(その場合は研究自体を延長する予定)、国内調査旅行についてはCOVID19も終息しつつあることから、ようやく本来の計画通りに進められるのではないかと思っている。そのようなことから次年度は国内調査をより進める方向で考えている。
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