研究課題/領域番号 |
20K12558
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
國本 千裕 千葉大学, アカデミック・リンク・センター, 特任准教授 (10599129)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 研究データ管理 / オープンサイエンス / RDM / 支援人材 / 専門職 / 実践知 / 知識活用 |
研究実績の概要 |
COVID-19による渡航制限の影響を受け、当初計画していた国外でのフィールドワークが、令和2年度に引き続き、令和3年度も実施不可能となった。そのため、令和3年度については、まず、令和2年度後半に再修正した新しい研究計画に従い、文献レビューの結果から構築した、新たな分析枠組み(ファセット群)の適用可能性について、検証と精緻化を行った。 具体的には、アジア・オセアニア圏で先進的な研究データ管理支援サービスを実施していた4大学において、COVID-19以前(2017~2019年)に、事前にマネージャクラスを対象に実施済みであった「業務概要と戦略についてのプレ・インタビュー」のデータを例として、前述した分析枠組みを用いたプレ分析を行った。その結果、文献レビューのみでは見いだせなかった、新たな分析ファセットを見出し、これを追加した。 つぎに、同時期に平行実施していた、同4大学において、実際に研究データ管理サービスを直接担っていた「現場担当者に対するプレ・インタビュー」のデータを用いて、各担当者が研究データ管理の支援時に「必須である」と認識していた知識・技能を抽出した。これにより、本研究の主目的でもある「支援人材に必要な知識とその活用」の実態分析にむけた、第2の分析枠組みの構築を試みた。当該枠組みは、令和4年度前半までに構築を完了する予定である。 プレ分析の結果から、国際共同研究が盛んな総合大学においては、研究データ管理を支援する際、複数部局から多様な専門性を有する人材が、支援に関与していることが明らかになった。さらに、研究データ管理の専門人材は、多様な領域の研究者と、大学職員の協働を成立させるためのブリッジ人材として機能していた。彼らは研究主題に対する知識以上に、研究の全体像を理解し、異なる背景と知識を持つ関係者同士のギャップを埋め、これらを接続する知識・技能が必須であることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本調査の中核は、令和2~3年度にかけて計画していたアジア圏の研究大学、および、令和4年度以降に実施予定の豪州の研究大学へのフィールドワーク(業務密着型の観察調査とインタビュー)であった。当初計画では、令和2年度前半には、研究データマネジメント支援人材の育成や必要知識(スキルセット)についての文献調査を完了し、年度後半でシンガポールの研究大学における長期フィールドワークに着手する想定であったが、COVID-19による海外渡航制限が長期化しており、上記の現地調査の実施が不可能となったため、計画の進捗状況としてはやや遅延している。 上記の状況を鑑み、昨年度中に研究計画を再考し、文献調査を当初予定より拡大した結果、研究データ管理のような「発展途上の業務」に対して、より有用な分析アプローチ(heuristic approach)を見出した。そのため、令和3年度は、昨年度の実施報告書に記した「今後の推進方策」に従い、実施済みのプレ・インタビュー・データ(豪州3大学、アジア1大学における研究データ管理支援の概要と戦略を尋ねたインタビュー)をテストデータとした分析ファセットの検証・精緻化を行った。その結果、分析の最中に、新たに実地調査の対象校として米国1大学を、調査対象の追加候補として見出した。さらに現在、渡航制限中でも実施可能な調査として、国内大学における各種「研究支援専門職」の実態と配置について、新たに追加調査を実施中である。最終的には、単純な海外調査の実施にとどまらず、国内実態との比較(国際比較)をとおして、日本国内の大学において、研究データ管理支援を円滑に実施するための、専門人材の適切な配置や、実践において直面しうる課題、およびその解決策を提示する。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度前半は、令和2~3年度にかけて実施した文献レビューをもとに海外大学における実地調査の際に必要となる「支援業務の分析」および「支援人材の知識・技能分析」2つの分析枠組みを完成させる。これらの成果については現在レビュー論文を作成中である。さらに令和4年度前半は、新たに調査対象として追加した米国の1大学に対して、オンライン形式でのプレ・インタビューを実施する。また、海外渡航制限の解除を待って、可及的速やかにアジア圏の研究大学1校、および、前述の米国1大学における実地調査を実施したい。 令和4年度中盤には、完成した新たな分析枠組みを用いて、豪州2大学(3校から2校へ変更)におけるフィールド調査を実施する。実地調査が完了した段階で、一次分析の途中経過を国際学会において報告し、フィードバックを受けた後、国内の査読付学会誌へ論文として投稿を予定している。年度中盤にかけては、これらの実地調査と平行して、令和3年度より急遽実施中の、文献による国内大学における各種「研究支援専門職」の実態調査も継続する。 最終年度の後半では、1)レビュー論文の成果、2)実地調査の成果、3)平行実施した国内大学における実態調査、それぞれの成果をふまえて、海外において円滑に実施されている研究データ管理支援サービスの実情と、国内の実態との国際比較を行う。最終的に、日本の大学において、今後、円滑な研究データ管理を行うために、その担い手となる支援人材に求められる役割、必要な知識・技能を明確化し、その成果をまとめて国際学会誌への投稿を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き、海外渡航制限の影響で、令和2年度および3年度内に実施を予定していた、アジアおよび豪州における長期フィールドワークは中止せざるをえなかった。そのため、海外渡航の費用、現地における長期滞在費、英語インタビューの反訳費等、フィールドワーク関連の諸経費については、その大半を翌年度へ繰り越ししている。さらに、令和3年度も、フィールドワークの成果をもとに現地開催の国際会議に参加予定であったため、これに関わる渡航費・参加費等もあわせて翌年度に繰り越した。 令和4年度については、計画変更を受けて繰り越した上記の経費を用いて、令和2年度に実施予定であったアジア圏の研究大学1校における海外調査、および、令和3年度にプレ・インタビューデータを分析中に、新たな候補として浮上した米国1大学における実地調査を予定している。これらについては、渡航制限解除後、速やかに実施できるよう準備を進める。 従来調査の候補としていた、豪州3大学については、現地調査は2校に絞って実施を検討中であり、年度中頃に調査を行う。残る1校は、費用の関係から、オンラインインタビューによる補足調査として実施する。年度後半では、令和4年度内に米国で開催される国際学会への現地参加を予定している。参加費用と滞在費は、繰り越し分を用いてこれにあてる。
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