研究課題/領域番号 |
20K12562
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
杉江 典子 東洋大学, 文学部, 准教授 (50383295)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 図書館 / レファレンスサービス / レファレンス情報源 / 出版 / 情報サービス |
研究実績の概要 |
本研究では,知的基盤であるレファレンス情報源の生産というプロセスにおいて,誰がどのような役割をどのようにして担っているか,現在どのような課題を抱えているかを明らかにすること,レファレンス情報源の役割がどのように変わろうとしているのかを検討することを目的としている。 2020年度は,レファレンス情報源に関する基礎データを収集し,現状を把握することを目指した。基本的な統計や書誌類を入手,あるいはアクセスして,レファレンス情報源の出版傾向に関するデータを収集した。このうち,電子形態で30年分のデータを取得できた「日外レファレンスライブラリー」と「NDL-Bib」について,出版点数の総数と,書誌,辞書,図鑑の年ごとの出版点数を算出した。 その結果,レファレンスブックの出版点数は,1990年以降増加するが,1999年の4,270冊 をピークに毎年減少し,2013年には,調査期間中で最も少ない2,555冊となっている。一般図書の新刊の出版点数は,2015年に80,048冊まで増加した後,毎年減少を続けており,レファレンスブックの出版点数は,一般図書とは異なる傾向を示すことがわかった。さらにNDL-Bibにおいて件名に「書目」と「辞書」が含まれたれた書誌データは,それぞれ13,470点と10,808点であった。書誌では,1990年の出版者実数が447者から概ね毎年減少し続けているが,1者あたり出版点数は大きくは変化していない。辞書では,1990年の出版者実数が187者から,2006年の235者までは徐々に増加し,2007年以降急激に減少している。ただし1者あたりの出版点数は調査期間を通じてほとんど変わっていない。出版点数の減少は,各出版者の出版点数ではなく,刊行する出版者自体の減少によることになる。出版者ごとの集計や書誌データ以外の情報も視野に入れた検討の余地が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していたレファレンス情報源を入手,あるいはアクセスすることができた。「日外レファレンスライブラリー」からは,書誌データの抽出ができないため,条件を設定してデータベースの検索を行い,結果を記録する形でデータを収集した。国立国会図書館が提供するNDL-Bibは,2020年12月で提供を終了したため取得したデータを集計して上記の分析を行ったが,国立国会図書館が提供するxml形式の書誌データを新たに取得し,データの加工抽出を行っている。ここまでの分析結果を,日本図書館情報学会の研究大会で発表することができ,情報源の出版傾向の全体像を大掴みに把握することができた。 ただし,国立国会図書館のxml形式で提供するデータは,書誌データの備える要素自体には大きな違いはないが,データ構造が異なることと,資料種別を指定してデータを取得できないために,処理するデータ量が多いという問題があり,抽出作業にやや時間がかかっている。また,当初予定していたデジタル化されたレファレンス情報源に関する情報は,まとまった形では存在しないため,入手方法に関してまだ検討の必要がある。これらについては,2021年度の調査研究において引き続き取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,2020年度に収集した統計データと書誌データを分析し,紙媒体のレファレンス情報源がデジタル化の進行にともなってどのように出版傾向を変化させてきたか,またデータベース化や,ウェブでの無料公開,提供形態の多様化などに関する傾向を把握する予定である。電子的情報源に関する情報がやや不足しているため,主題分野の専門家に相談をするなどして,地道に情報収集を行う。また対象となる出版物が大量になるので,ここから次年度以降の分析の対象にする分野や情報源の形態を検討する。 研究計画の2年目までは,研究室で情報源を利用すれば可能な調査研究であったため,コロナ禍の影響を受けることなく実行ができるものと考えている。ただし,3年目以降に,レファレンス情報源に関連するステークホルダーへのインタビューを予定しており,対象者の選定や依頼,インタビュー自体について,予定どおりに運ばない可能性がある。対象者に関する情報収集を行うとともに,代替措置についても検討をしておく必要があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していたCD-ROMの古い版が絶版になり,購入できなくなったこと,またいくつかの統計資料も同様に入手できないものがあったことが挙げられる。これらを手作業で入力するため,またデータ処理を依頼するための謝金を用意していたが,紙媒体の資料のうち入手できないものがあったことと,コロナ禍で学生に研究室における作業補助を依頼できたなかったことが理由で,謝金を使用しなかった。入手できなかった資料は,現在加工中の国立国会図書館の書誌データによってある程度はまかなえる。またデータ処理は時間を要したが自分自身で可能な範囲で行った。
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