研究実績の概要 |
日常生活を円滑に送るためには、意図に反した行為(誤り)を予防するとともに、誤りを素早く検出し、行為を柔軟に修正することが必要となる。本研究は、行為の意図と行為の結果との間に生じたミスマッチの原因を自己以外に帰属し得る状況において、自己の行為の誤りに気づかない現象が生じるメカニズムの解明を目指すものであった。 自己の行為の誤りに気づかない現象の特徴のひとつは、行為の意図と行為の結果との間にミスマッチが生じたことを示す情報はフィードバックされているものの、ミスマッチの原因を自己に帰属できなかったため、自己の行為の誤りに気づくことができず、行為を修正する機会を逸し、望ましくない結果にいたる点にある。そこで本研究では、1) 個人要因、2) 課題要因、3) 個人要因と課題要因のインタラクションの影響に関する3つのサブテーマを設定した。 2022年度までは学内での実験実施が難しい状況にあったため、関連課題を用いて行った過去の実験データを認知的制御という視点から再分析し、成果の一部を学術集会等で報告した。またヒューマンエラーという観点から研究課題を整理し直し、本研究課題の医療場面への還元を試みた。学内での実験実施が可能となった2023年度は、1) 個人要因、2) 課題要因の影響を検討するための実験を実施した。個人要因については、20歳から70歳までの成人94名を対象に、コミッション・エラー誘発課題(石松他, 2022)を用いた実験を行い、課題成績や課題成績の自己評価に及ぼす年齢と個人特性[Locus of Control (帰属スタイル)や能力の自己評価など]の影響を検討した。課題要因については、課題難易度やシステムの信頼性の違いによる影響を検討した。これらの成果を踏まえ、自己の行為の誤りに気づかない現象が生じるメカニズムの一端について考察した。
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