研究課題/領域番号 |
20K12593
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
菅原 路子 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30323041)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リンパ浮腫 / 脂肪細胞 / ポリアクリルアミド弾性基板 / 脂肪滴 |
研究実績の概要 |
リンパ浮腫は,皮下組織へのリンパ液滞留により四肢に強いむくみをきたす疾患であり,リンパ浮腫患者の皮下脂肪組織は肥大化かつ繊維化することが報告されている.今年度は繊維化を考慮し,細胞外基質の弾性特性の違いが脂肪細胞に及ぼす影響を明らかにすることを試みた. 実験では,従来のガラス基板に加え,ポリアクリルアミド弾性基板を用いた.ガラス基板上にて脂肪細胞へ分化させた後,弾性基板へ再播種し,弾性基板上にて脂肪細胞を培養した.そして,Nile redにより脂肪滴を蛍光染色したうえで共焦点顕微鏡を用いて観察し,脂肪細胞が細胞内に蓄積する脂肪量を,脂肪滴の大きさを計測することにより定量評価した. 再播種後の脂肪細胞を培養する弾性基板の弾性率と,脂肪滴の大きさの関係を求めた.脂肪滴半径の頻度分布に着目すると,弾性率が10 kPaの弾性基板上の脂肪細胞の脂肪滴半径は4μm以上の大きいものの割合が高く,ガラス基板上のそれと同様の傾向を示した.それに対し,弾性率が4.0 kPaより小さい基板上では,脂肪滴半径が0.5から2.0 μmの範囲の小さいものの割合が高い傾向が見られた. 脂肪細胞において,脂肪滴が中間径フィラメントの一種であるビメンチンを伴い新たに形成されると,その後に他の脂肪滴と結合して大きな脂肪滴へと成長することが報告されている.基板の弾性率は,ビメンチンフィラメント形成に影響を及ぼすことが報告されている.基板の弾性率が5 kPa以上においてはフィラメント形成が不十分であることに伴い脂肪滴形成が抑制され,脂肪滴の新たな形成に比較し脂肪滴融合が優位に生じ,その結果小さな脂肪滴半径の割合が高くなったと予想された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目に,高濃度脂肪酸およびアルブミンが脂肪細胞の肥大化に及ぼす影響について研究を実施した後,2年目には,細胞外基質の弾性率の違いが脂肪細胞の脂肪滴形成に及ぼす影響についての研究を実施した. 1年目において,粘弾性特性が異なるポリアクリルアミドゲルを作製し,そのうえで脂肪細胞を培養する予備実験を実施しており,その際ポリアクリルアミドゲル上にて脂肪細胞に分化させることができなかったことを確認済みであった.これについては,ゲル表面の接着因子として,フィブロネクチンやI型コラーゲン,およびそれらの混合液を用い検討したものの,いずれにおいても脂肪細胞への分化が困難であった.そのため,脂肪細胞への分化まではガラス基板上で実施し,その後ポリアクリルアミドゲルを用いた弾性基板に再播種することによって,細胞外基質の弾性率の違いが脂肪細胞の脂肪滴形成におよぼす影響を検討した.脂肪滴形成の定量評価において,当初位相差顕微鏡にてその大きさの評価を試みたものの,予想以上に小さな脂肪滴の形成が多かった.そのため1年目と同様に,Neil redを用いた蛍光染色と共焦点顕微鏡を用いた観察により,脂肪滴半径をできるだけ正確に計測することとした. 以上をふまえ,現在までの進捗状況は,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,高濃度脂肪酸およびアルブミンが脂肪細胞のコラーゲン分泌に及ぼす影響を検討し,リンパ浮腫において発症する脂肪組織の線維化に関する研究を推進したい.具体的には,脂肪細胞のコラーゲン分泌について,脂肪酸の濃度の違いにより,脂肪細胞自身のコラーゲン分泌が変化し,細胞外の線維組織に違いが生じることが,1年目の事前実験において確認された.ただし,限られた脂肪酸を用いた予備実験であったため,今年度は脂肪酸の種類および濃度を様々に変化させ,脂肪細胞のコラーゲン分泌の変化についてより詳細な検討を進める予定である.また,2年目に実施した細胞外基質の弾性率を変化させた力学環境における脂肪細胞の脂肪滴形成実験において,検討した弾性率の範囲が狭いことから,より大きな範囲の弾性率についての追加実験を実施予定である. また,最終年度であることから,これまでに実施した細胞外の高濃度脂肪酸およびアルブミンが脂肪細胞の脂肪滴の大きさに及ぼす影響,および細胞外力学環境が脂肪細胞の脂肪滴形成に及ぼす影響も加味し,リンパ浮腫に伴う脂肪組織の肥大化・線維化と,それに関わる脂肪細胞の役割を複合的に検討し,そのメカニズムを明らかにすることを試みる.
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