研究課題/領域番号 |
20K12595
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小関 道彦 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (50334503)
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研究分担者 |
高橋 淳 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (60345741)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 側弯症 / 有限要素解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、側弯症に対する外科的治療の侵襲を低減する方法について計算機シミュレーションを援用して検討し、短い固定範囲で十分な矯正効果を得る新しい手術手法を提案することを目的としている。研究の初年度は、脊椎固さ推定手法の開発と題して、計測が困難な患者ごとの脊椎の固さ(変形のしにくさ)を計算機シミュレーションに基づき定量的に推定することを試みた。 まず、概念モデルを用いて推定手法の検討を行った。側弯した脊椎形状を数学的に表現した有限要素モデル(概念モデル)に対して各椎間板に様々な物性値(固さパラメータ)を与え、側方に荷重を加えることにより側弯症患者の屈曲位X線像を模擬した。そして、各椎間板の固さパラメータが均一なモデルに対して上記と同じ頸部移動量を強制変位として与えると、腰部や胸部の変形が上記モデルとは異なる変形結果が得られる。この両者の変形の違いを比較することによって固さパラメータを定量化する。概念モデルの場合にはほぼ100%の精度で固さパラメータを推定できることを確認した。 次に、上記の提案手法を実際の臨床データに適用した。側弯症患者の立位X線正面像から脊椎形状を反映した有限要素モデルを構築し、患者の側屈時X線像から第7頚椎の位置を求め、それを解析モデルに対する強制変位として設定して解析モデルを変形させた。この変形モデルと患者側屈位X線像との違いから固さパラメータを推定した。この臨床データの場合にも、概念モデルと同様に固さパラメータの推定が可能であることを確認できたが、その信頼性には疑問が残された。 また、次年度以降に実施する予定である実験的検討に用いる脊椎模型の試作を行った。高精度な3Dプリンタで椎骨形状を出力し、椎間板を模擬した軟質樹脂でそれらを接続することにより変形可能な椎骨模型を製作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記したように、概念モデルの場合には脊椎の固さパラメータをほぼ100%の精度で推定可能な手法を構築することができた。しかし、この手法を臨床データに適用すると、その精度は大きく低下してしまった。その理由として、立位および側屈位の全脊椎X線像に対して、操作者による目視での指定に基づいて各椎骨の位置情報を得ていることが挙げられる。複数の操作者による試行により、椎骨位置を指定する際のわずかな誤差が計算過程において増幅され、推定結果のばらつきが大きくなることが明らかとなった。このため、今回開発した手法を臨床に活用するためには改善の余地がある。一方、次年度以降に実施する模型実験の準備は順調に進めることが出来た。このため、進捗状況は「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討では、臨床での活用のしやすさを考慮して、脊椎を非常に単純化した解析モデルを用いて固さパラメータを推定することを目指していた。具体的には、簡略化した形状の椎骨と椎間板の積層として脊椎を表現し、周囲組織による変形のしにくさも含めて椎間板の固さとして表現することを企図していた。X線像で椎骨位置を指定する際の誤差が推定結果に大きく影響した原因は、この解析モデルの単純化であると考えられる。 そこで、固さパラメータ推定時の位置指定誤差の影響を小さくすることを狙い、解析モデルの再現性を高める。具体的には、肋骨などの周囲組織を再現した解析モデルを構築して構造的な変形のしにくさを再現することにより、椎間板の固さパラメータの設定幅を狭めることが可能となり、推定精度が改善すると期待される。 また、当初計画の通り、模型実験による固さ推定手法の妥当性検証を推進したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の検討では主にコンピュータを用いた計算機シミュレーションを実施した。ここで用いた解析モデルは簡易なものであったため、フリーの解析ソフトウェアで十分と判断し、予算を執行しなかった。また、並行して作成した脊椎模型について、3Dプリンタの材料費の支出を見込んでいたが、所属機関からの支援によりこれも無料で使用することができた。さらに、予算に計上していた出張費用も、コロナ禍による学会講演会の中止やオンライン開催により支出する必要がなかった。 次年度は、本年度の計算機シミュレーションで生じた問題を回避し、手術状態を模擬するためにより高精度な解析を行う予定であり、有料の解析ソフトウェアを導入したい。また、次年度以降は所属機関の支援もなくなるため、模型製作費用も必要となる予定である。
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