研究課題/領域番号 |
20K12596
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平田 宏聡 名古屋大学, 医学系研究科, 特任講師 (90414028)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メカノバイオロジー / 焦点接着斑 / アドヘレンスジャンクション / アクトミオシンファイバー / 組織伸展 / 細胞増殖 |
研究実績の概要 |
生体運動や臓器活動、さらには外部環境からの力学負荷などにより生体内の組織は絶えず変形を受けている。変形を受けた組織では、変形の様態に応じて細胞増殖や細胞死、細胞排除が誘導されることで、細胞数がコントロールされている。上皮組織が伸展される場合、組織中の上皮細胞は伸展による力学刺激を主に「細胞外基質との接着構造」および「隣接細胞との接着構造」を介して受けると考えられる。本研究では、伸展された上皮組織において、「細胞外基質との接着構造」である焦点接着斑と「隣接細胞との接着構造」であるアドヘレンスジャンクション(AJ)それぞれが細胞増殖の制御におよぼす役割を明らかにする。 昨年度までの研究で、上皮単層中の細胞の増殖能は組織の伸展変形に対してロバストであり、これは焦点接着斑からのFAKを介した増殖促進シグナルと、それ以外の因子による増殖抑制効果との拮抗作用で実現されていることが示唆された。実際に、FAKの活性(リン酸化)が伸展刺激に応答して焦点接着斑で亢進することが今年度確認された。 今年度は更に、伸展変形に応答して増殖抑制的に働く因子について研究を進め、その候補としてAJの関与を調べた。上皮細胞を様々な細胞密度で培養し伸展刺激を加えたところ、細胞周長のうち隣接細胞と接している長さの比率が高い細胞ほど、伸展刺激に応答して細胞増殖が抑制された。AJの役割をより直接的に検証するため、AJの主要構成分子であるalpha-cateninの発現をノックダウンしAJの形成を阻害した。上皮細胞を単層培養し伸展刺激を加えるとFAK阻害下で細胞増殖が抑制されたが、alpha-cateninをノックダウンするとそのような伸展による増殖抑制効果は消失した。以上の結果から、AJが伸展刺激に応答して細胞増殖を抑制することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上皮単層中の細胞増殖能の組織伸展変形に対する応答について、今年度までの研究から、焦点接着斑からのシグナルによる増殖促進効果とアドヘレンスジャンクションによる増殖抑制効果とを分離して明らかにすることに成功した。これは、本研究の最大の目標の一つに回答を与えるものであり、おおむね順調に進展していると判定した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに、上皮単層の伸展変形に応答してアドヘレンスジャンクション(AJ)が細胞増殖を抑制することを明らかにした。次年度は、組織伸展という力学刺激がどのようにAJを介して増殖抑制シグナルへと変換されるのか、そのメカニズムの解明に向けて、伸展刺激に伴うAJの力学状態の変化を可視化・定量することを試みる。上皮細胞のAJにおける細胞間接着分子であるE-カドヘリンについて、その張力状態を可視化定量するツールとして、E-カドヘリンの細胞質ドメインにクモ糸タンパク質由来の弾性ペプチドを挿入したFRET張力センサープローブが開発・報告されている。そこで、このE-カドヘリン張力センサーを用いて、伸展変形時のAJの張力変化を評価する。E-カドヘリン張力センサーを入手し、本研究で使用しているヒト上皮細胞への導入を試みたが、導入効率が極めて低く、そのままでは実験での使用に耐えなかった。そこで次年度では、まずE-カドヘリン張力センサーを恒常的に発現したヒト上皮細胞を樹立し、これを用いて実験を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究を効率的に実施することで若干の次年度使用額が生じたが、令和4年度の請求額と合わせ、張力センサー恒常発現細胞の樹立のために使用する予定である。
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