研究課題/領域番号 |
20K12597
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大槻 文悟 京都大学, 医学研究科, 講師 (30646766)
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研究分担者 |
藤林 俊介 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (30362502)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 抗菌性 / ヨウ素処理チタン金属 / 黄色ぶどう球菌 |
研究実績の概要 |
これまで当研究チームでは、チタンに生体活性能を付与するアルカリ加熱処理を開発し、優れた長期臨床成績を発表している。一方、インプラント感染症は重大な術後合併症の1つであるが、優れた抗菌性を示す金属インプラントは殆ど例がない。本研究では、既存のアルカリ加熱処理に新たにヨウ素処理を追加した新たな金属(以下I-Ca-Ti) を開発し、I-Ca-Tiの骨結合能、抗菌性、毒性を検証している。生体親和性(毒性及び骨結合性)と抗菌性とをそれぞれin vivo及びin vitroで検証する4つの研究をすすめてきた。in vitroにおける生体親和性試験であるが、I-Ca-Tiのヨウ素担持量では骨芽細胞などの細胞増殖能力を阻害することはなく、細胞毒性は認めなかった。また骨結合能は、in vivoでの実験を行い、既に高い骨結合能をもつことが示されているアルカリ加熱処理後カルシウムイオン担持チタンと同等の結果を得ることができた。この結果から、金属に含有したヨードイオンが骨結合を阻害する可能性は否定された。In vitroにおける抗菌性の実験では、完全に細菌の死滅には至らないものの、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌の接着及び繁殖を大幅に低減することが確認できた。最終試験として、細菌で汚染したインプラントをラット皮下に埋入したところ、positive controlと比較して、I-Ca-Tiは有意に感染発生を予防した。結果から考察すると、アルカリ加熱処理後ヨウ素担持チタンは生体内での親和性と抗菌性を両有する生体材料であると期待できる。現在は、骨髄感染症モデルを用いて、より厳しい条件下でのin vivo抗菌試験を実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験では純チタン(cp-Ti),純チタンにアルカリ加熱及びCa付加処理を行い既に骨結合が明らかになっているもの(以下Ca-Ti),更にCa-Tiにヨウ素処理を加えたもの(I-Ca-Ti)の3 群で比較検討した. in vitro試験では、マウスの骨芽細胞やMC3T3-E1細胞を用いて金属との親和性を確認した。細胞毒性試験(XTT-assay) では、いずれの金属材料でも毒性を認めなかった。アクチン染色では、I-Ca-Tiに対する骨芽細胞の良好な接着と増殖が確認できた。またALP活性値及びRT-qPCRにおいても骨誘導に関する蛋白及び遺伝子発現はcp-Tiを上回った。動物を用いた骨結合試験では,日本白色家兎の脛骨に金属平板を挿入し,4カ月までの力学試験及び組織学的評価(スコア評価)を行った.力学試験及び組織評価では,全観察時点でI-Ca-TiはCa-Ti と同等の値を示した。抗菌性試験であるが、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(2 × 106 CFU/ml)菌液400ul に金属切片を浸漬し、24時間後の生菌量を測定した。I-Ca-Tiの表面菌量は(0.13±0.18)× 104 CFU/sample、 対してcp-Ti およびCa-Ti上はそれぞれ(7.3±4.5)× 104 CFU/sample,(6.1±4.1)× 104 CFU/sample であり、cp-Ti と比較して98.1%の細菌低減を認めた。また、同様に希釈した細菌液に1時間浸漬した金属切片を感染インプラントとし、ラット皮下に埋入を行いcp-TiとI-Ca-Tiの抗菌比較試験を行った。結果、cp-Tiと比較してI-Ca-Ti では95.3%の菌の低減が確認でき、組織学的にも破綻が明らかに減少した。ラットの皮下埋入試験結果が良好であったことから、予定よりも早く、更なるステップとした難治性病態である骨髄炎モデルを使用した抗菌評価を現在施行中である。
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今後の研究の推進方策 |
一番重要なin vivoにおける抗菌性試験(感染試料のラット皮下埋入試験)に於いて、良好な抗菌性が確認できたことから、ラット脛骨に細菌と金属試料を埋入する骨髄炎モデルによる評価を推進している。こちらは、海外の報告においても実験結果にばらつきが多く、骨髄炎自体を抑制することが難しい試験であるが、脛骨に細菌と金属片を挿入し、一定期間ののち屠殺を行い、生菌数のコローニカウント、骨髄の放射線学的評価、組織切片を作成した骨髄炎の評価、細菌の活動の差異を総合的に検証する予定である。菌株によって試験結果が変わる可能性もあり、他菌株を使用する実験も行う。また良好な結果が示せた場合は、ヒトに近い大型動物で、脊椎固定モデルや、人工関節モデルなど、臨床に近づけた試験を行う予定である。
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