研究課題
本研究は、医師の技量や患者との信頼関係が診断に影響を及ぼしてしまう、うつ病を、主観が介在しない客観的な数値によりスクリーニングする方法の確立を目指している。うつ病患者と健常者では精神負荷に対する自律神経応答が異なることから、ランダムな数字を発声する精神負荷をかけ、ニューラルネットワーク等の判別アルゴリズムを用い、うつ病か健常かの判別だけではなく、うつ病、あるいは健常それぞれの程度を、ひとつの数字で表現することを試みる。初年度では、音声案内のもと、計測開始から判別までを自動で行うプロトタイプ製作を行った。このシステムは、心拍波形と呼吸波形のみを記録し、のちに解析ができる仕様とした。その場での解析はできなかったため、実用的とは言えないシステムであった。2年目となる今年度は、プロトタイプに見られた脈波計測における乱れの問題を解決すべく、初年度に製作したシステムの、脈波計測用センサの使用方法等を改善し、計測精度向上を試みた。また、これまで判別には、最もシンプルである線形判別分析を用いていたが、異常値に対応するには限界があったため、XG-Boostによる機械学習法を用いたアルゴリズムを開発した。同システムを用い、健常者と精神疾患の入院患者を対象としたデータ収集を行った結果、特異度、陽性的中率が大幅に向上し、正確度が9割となる高い精度での判別を行うことができた。前年度に高い精度が得られたシステムであるが、やはり異常値に対する柔軟な対応力にはまだ課題があると考える。よって、研究最終年度では、より多くのデータを収集し、この課題を解決させる。新型コロナウイルス感染症蔓延のため、病院側の協力は難しいところではあるが、信頼性の高い精度を得るべく、データ収集に励んでいくこととする。
3: やや遅れている
初年度末より病院でのデータ収集を開始したが、新型コロナウイルス蔓延の影響により、2年目も病院側もデータ収集に多くは対応できず、また、我々が病院へ出向きデータ収集を行うこともできなかったため、患者を対象とした計測は10名程度となった。そこで、これまでとは異なる機械学習を用いたアルゴリズム開発に努め、少ないデータ数でも精度向上ができた。
最終年度となる本年度は、これまで用いていた線形判別により生じていた異常値に対応するため、機械学習であるXG-Boostによる判別の精度向上に努める。これにより、異常値への対応力の弱さや変数の多さの課題を解決し、感度・特異度の向上を図る。また、リアルタイムでの条件更新を行うことで、未知のうつ病にも対応可能なアルゴリズムとする。更に、病院での臨床応用を開始し、精神負荷として用いる乱数発話の自律神経応答、ランダムネス、年代ごとの分類を併用することによりスクリーニングの精度向上を試みる。精神科でのうつ病の程度を示すシステムの数値が治療効果を反映するかを検証する。新型コロナウイルスの影響により、仕事、日々の生活、人間関係などの悪化により、うつ病等精神疾患罹患者は増加傾向にあるが、精神科におけるスクリーニングや治療効果判定の他、本システムの病院以外での使用を視野に入れ、精神科等未受診の潜在的患者を適正な治療へつなげるべく、今後の研究を継続していく。
数百円の未使用額だったため、端数を消化するという無理な購入をしなかった。
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Frontiers in Physiology, section Computational Physiology and Medicine
巻: - ページ: -
10.3389/fphys.2021.642986
Sensors
巻: 21(151) ページ: -
10.3390/s21155177