研究課題/領域番号 |
20K12606
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
中村 俊康 国際医療福祉大学, 医学部, 教授 (70265859)
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研究分担者 |
多田 充徳 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究チーム長 (70392628)
名倉 武雄 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任教授 (90306746)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 母指CM関節 / 関節固定術 / 関節形成術 / 指先軌跡 / 指先出力 |
研究実績の概要 |
ヒトの母指運動は他の霊長類や類人猿と比較して各段の大きな可動域と指先出力を有する.ヒトの母指運動の特徴としては母指の対立運動が可能となったことが挙げられ,この運動に伴いヒトでは母指を他4指と対向させることができ,物体の把持や握り動作,つまみ動作などが可能となった.母指の多彩な運動を可能とするために,母指の根本に存在するCM関節は他指と比較して多方向の関節運動が可能となった一方,母指CM関節には他指と比較して高頻度に変形性関節症を生じる.母指CM関節症に対する代表的な外科的治療にはCM関節固定術(以下関節固定術)と吊り上げ関節形成術(suspension arthroplasty: 以下関節形成術)があるが,その優劣はついていない.そこで本研究では未固定屍体標本母指を用いて,正常母指CM関節周囲の筋腱の挙動を変化させることで母指の運動および指先出力がどのように変化するかを計測した上で,同指に関節固定術と関節形成術を施行し,同様の計測を行い,指先軌道と指先出力がどのように変化するのか,さらにどちらの術式が優れているのかを明らかにすることを目的とした.令和2年度には未固定屍体標本の解剖を行い,母指外在筋並びに内在筋の起始・停止および筋腱の走行を詳細に計測し,既存のサーボモータ付き筋腱駆動装置の設定を行った.令和3年度には正常母指運動の計測と指先軌跡の解析を行い,さらに母指CM関節を鋼線3本で関節固定し(関節固定モデル),指先軌跡の解析を施行した.この両者を比較した結果,関節固定術モデルでは正常母指の軌跡と比較して指先軌跡の最大面積が70%程度喪失されることが分かった.令和4年度にはコロナ禍による慶應義塾大学バイオメカニクス研究室への入室制限に伴い関節形成術は予備実験にとどまったため,先に関節固定モデルと正常母指の運動比較の結果発表を国際学会で行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により慶応義塾大学バイオメカニクス研究室への立ち入りが制限されたこと,未固定屍体標本の入手がやや困難になったことからやや遅れが認められる.
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今後の研究の推進方策 |
2022年に行った未固定屍体標本への関節形成術の予備実験を進歩させ,計測を行う予定である.具体的には母指の末節骨,基節骨,中節骨,舟状骨および固定台にそれぞれ3つずつのマーカーをそれぞれが干渉しないように取り付け,外在筋腱をサーボモータで一定速度で牽引し,光学系モーションキャプチャーシステムで母指軌跡を計測,同時に指先出力をロードセルで計測する.正常母指の計測後に関節形成術を行い,同じ計測を繰り返す.予備実験で人工靱帯の設置方向は45°遠位が効果的と判明したため,角度計を用いてできるだけ正確に人工靱帯を設置する.最終的には3D-CTを撮影し,骨モデルを作成,この骨モデルをコンピュータ上で計測データ通りにシミュレーションし,指先軌跡の比較解析を施行する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果に加え,コロナ禍にために参加予定であった国際学会や国内学会がWeb開催となり,旅費が減少したためである.すでに発注済み手術器械の海外からの到着遅延は2022年度中に解消した. 使用計画:コロナ禍による研究室入室制限が2023年5月に解除されたため,今後は順調に実験を行い,助成金を使用していく予定である.
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