2022年度は前年度まで実施してきた熱電対によるパルスレーザ誘起気泡まわりの温度分布計測を気泡近傍壁面上で実施した.また測定した温度分布をCEM43℃と呼ばれる評価方法で,生体内でレーザ照射した際の幹部周囲生体組織への影響を評価した. 尿路に結石が形成される疾患を尿路結石症といい,近年,日本での年間罹患率が増加している病気である.代表的な治療法の一つに,内視鏡を用いた経尿道的尿路結石破砕術(以下 URS)がある.URSは,尿道から内視鏡を挿入し,結石を確認しながらレーザで破砕し,結石を体外に摘出する手術方法である.URSでは水に吸収されやすいHo:YAGレーザが使用される.レーザ照射直後ファイバ先端付近の水が蒸発しレーザ誘起気泡が形成される.結石破砕因子は気泡崩壊時の衝撃とレーザの熱であり,これらの因子は周囲生体組織に損傷を与え,合併症を引き起こす場合もある. 平坦な弾性壁近傍や弾性壁で囲まれた円筒狭小領域内で形成された気泡は,Brujanらや濱本らによって観察されており,壁面近傍に対する気泡崩壊挙動が示されている.実際の治療時では,結石の周囲に尿路が隣接している状況が存在するが,このような状況を模擬した領域での気泡挙動に関する研究は無いようである.そこで本研究では,結石と尿路を模擬した剛体壁と軟質壁を隣接させ,壁面近傍で形成されるレーザ誘起気泡の崩壊挙動を観察した.その結果,軟らかい壁面は変形し,気泡は剛体平面方向へ移動することを示し,軟らかい壁面への接触なしに剛体壁上で気泡崩壊する範囲を示した. また、壁面近傍における気泡挙動に対し,壁面上に配置した熱電対を用いた時間平均的な温度分布計測を行うとともに,CEM43℃を用いて近傍壁面上の生体組織がダメージを受けると予測される範囲について検討を行った.その結果,ファイバ先端前方領域において熱傷の発生の可能性を提示した.
|