本研究ではヒト自律神経支配を再現した心筋細胞との共培養系を構築することで、自律神経シグナルによる心筋機能への影響を評価可能な機能評価システムの確立を目的とした。本研究成果の概要を以下に記す。 ①自律神経sphereの作製と評価:ヒト心筋組織との共培養を行うためのヒト自律神経sphereの作製を試みた。具体的には、ヒトiPS細胞からの自律神経前駆細胞への細胞分化時に行っていた胚様体作製と浮遊培養技術を、自律神経への成熟過程においても行うことで自律神経sphereの作製を行った。qPCRによる評価の結果、交感/副交感sphereそれぞれにおいて交感神経マーカーであるTHやDBH、および副交感神経マーカーであるCHATやVACHTの顕著な上昇を確認できている。 ②自律神経sphereと心筋組織の共培養系構築:①で作製した自律神経sphereと心筋細胞との共培養系構築を行い、機能的結合が生じるかの検討を行った。ヒト心筋細胞のみを培養したサンプル及び交感神経/副交感神経sphereとの共培養を行ったサンプルにおいて、ニコチンを添加した際の心筋活動変化の計測を行った。その結果、心筋細胞のみのサンプルにおいてはニコチン添加による心筋活動への影響は観測されなかった。一方、交感神経sphereとの共培養系においてはニコチン添加により顕著な心拍頻度の増大が、副交感神経sphereとの共培養系においては心拍頻度の減少傾向が見られた。これより、 ヒト自律神経sphereとヒト心筋組織との機能的結合形成を確認した。 ③共培養系を用いた心筋毒性解析:構築した共培養系の薬理解析への有用性検証を行うために、末梢神経障害と催不整脈作用を有する抗がん剤の添加試験を行った。結果として、この抗がん剤は神経障害を介して心筋活動に影響を与えることを示唆する結果が得られ、本共培養システムの有用性が示唆されている。
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