研究課題/領域番号 |
20K12616
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
佐藤 大介 山形大学, 大学院理工学研究科, 助教 (60536960)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 末梢交感神経 / 機能的電気刺激 / 糖取り込み / インスリン抵抗性 |
研究実績の概要 |
メタボリックシンドロームが社会問題化する中で、耐糖能障害や脂質異常症の諸症状に対する有効な治療法の社会的ニーズは非常に高く、例えば、良好な血糖値や血中脂質を維持することは、糖尿病の進展や合併症予防の主軸とされている。その一方で、高齢者や高血圧を併発している患者にとって長時間の運動は困難を伴う可能性も高く、薬物治療であっても、注射剤使用時の苦痛や低血糖等の副作用は依然として存在する。 生体の糖取り込み経路は、インスリン依存と非依存の二つに大別されるが、中枢由来の交感神経活動が末梢組織の糖取り込みをインスリン非依存的に亢進する系が存在することが報告されている。また、脂肪細胞は、交感神経の支配を受けていることもよく知られている。これらのことは、末梢交感神経の人工的な賦活が生体のエネルギー代謝を制御しうる可能性を強く示唆している。 今年度の研究計画では、まず、投薬や運動によらない全く新しい糖代謝制御法として、末梢交感神経系の人工的な賦活を提案するべく、その基礎段階として、病態モデル動物での末梢交感神経電気刺激の糖取り込み亢進効果を検証した。 ラットを健常群及びインスリン抵抗性を有する高脂肪食負荷群とに分け、片側坐骨神経内交感神経束へ電気刺激を行ったところ、刺激中は両群ともに糖取り込みが亢進するとともに、刺激停止後もその効果は持続した。このとき、血漿インスリン濃度は刺激の有無によって変化しなかった。健常群への電気刺激による糖取り込み量は高脂肪食群よりも高値であった一方で、刺激前に対する刺激中の糖取り込み量の上昇率は、高脂肪食ラットの方が高値であり、高脂肪食群の刺激中の糖取り込み量は、健常群の刺激開始前の値近傍にまで上昇した。 以上のことから、末梢交感神経への電気刺激は、インスリン抵抗性の有無にかかわらず糖取り込みを亢進し、この糖取り込みはインスリンとは独立の系を介している可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は3年の研究期間を設定しており、(1)末梢交感神経電気刺激中のインスリン抵抗性亢進モデルラットの糖取り込み定量、(2)末梢交感神経電気刺激の糖取り込みメカニズム解明、ならびに(3)末梢交感神経電気刺激の脂質代謝に及ぼす影響の3つのテーマについて主に検討する計画である。 今年度は、ラットへの高脂肪食負荷によってインスリン抵抗性が亢進することが確認され、ラットの末梢交感神経束への電極刺入ならびに糖取り込み定量法も確立できた。これらの方法によって、実際に末梢交感神経電気刺激の糖取り込みに及ぼす効果も実証したため、本研究計画で最も重要な基盤技術の確立に成功し、末梢交感神経電気刺激の糖取り込みメカニズムの検討に入る目途が立った。 分子メカニズムの検討方法として、既に骨格筋における糖代謝に関連する遺伝子の検出方法については実験条件を確立済みであり、予備的検討を開始している。
|
今後の研究の推進方策 |
末梢交感神経電気刺激の糖取り込みメカニズムの検討方法として、今年度の同様の実験を繰り返し、骨格筋及び肝臓のグリコーゲンを定量するとともに、骨格筋における糖代謝関連遺伝子ならびにタンパク発現の解析を予定している。 また、電気刺激が脂質代謝に及ぼす影響についても、同様の電気刺激後に骨格筋及び脂肪組織を採取し、遺伝子発現解析によってミトコンドリアの機能を評価するとともに、化学分析によって、脂肪酸組成も評価する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの流行によって、出張を伴う学会発表がほぼなくなったことで、旅費の支出がなかった。支出を見送った旅費は、老朽化した実験設備の更新に充てた一方で、端数は次年度使用額として残ったが、実験で使用する試薬が毎年値上がり傾向にあるため、次年度の実験にて使用する試薬の購入費にこの残額が充てられる予定である。
|