本研究の目的は、インスリン抵抗性を有する状態下での末梢交感神経電気刺激(MS)の糖取り込み亢進効果を検証するとともに、MSによる脂質代謝制御の可能性について検討を行うことである。 令和2年度は、片側坐骨神経内交感神経へのMSが健常及び高脂肪食ラットいずれにおいても糖取り込みを亢進することを明らかにした。ただし、電気刺激開始から60分後の血糖値は刺激開始直前の値から低下せず、血漿インスリン濃度も変動しなかった。 令和3年度からはMSによる糖取り込みメカニズムの解明に着手し、健常及び高脂肪食ラットへ60分間のMSを行った結果、健常ラットの両側ヒラメ筋及び長趾伸筋のPgc-1α mRNA発現が促進する傾向にある一方で、高脂肪食ラットではこうした変化は一切みられないことを明らかにした。MSが脂肪組織中脂肪酸含有量に及ぼす影響についても検討した結果、健常ラットではMSによって脂肪組織の解剖学的部位選択的に脂肪酸含有量が減少する一方で、高脂肪食ラットではむしろ増加する可能性が示唆された。 最終年度である令和4年度は、MSが骨格筋での糖取り込みシグナル伝達及び肝臓の糖代謝調節機能に及ぼす影響について検討した。60分間のMSは、少なくとも健常ラットにおいてヒラメ筋及び長趾伸筋でのAMPKタンパク発現量、血漿中乳酸濃度ならびに肝臓のグリコーゲン含有量を増加させる傾向にあった。その一方で、高脂肪食ラットでは健常ラットでみられたこれらの影響は一切みられなかった。 以上の結果から、MSはインスリン抵抗性が亢進した状態下であってもインスリン非依存的に糖取り込みを亢進するが、PGC-1α及びAMPKを介することでより多くのグルコースを末梢組織に取り込む可能性が示唆された。また、MSによる代謝亢進は乳酸及びグリセロールの産生も促進し、これらを基質とした糖新生による血糖調節に寄与している可能性も示唆された。
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