研究課題/領域番号 |
20K12617
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
田中 明 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (10323057)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 映像脈波 / 脈波伝播 / 心拍変動解析 / 周期成分分析 |
研究実績の概要 |
本年度の目標の一つである映像脈波の抽出法の改良と瞬時心拍数計算精度の向上では,周期成分分析(PICA)における位相情報の精度を改善する方法としてPICAを繰り返し用いて心周期の情報を更新する方法を提案した.手法の有効性を従来法と比較して検討した結果,従来法よりも瞬時心拍数の精度が有意に向上した.また,人為的にガウスノイズを映像の色変化に付加した場合においても従来法よりもノイズ耐性の向上が示され,提案手法の有効性が示された.しかし,繰り返しの回数あるいは収束の判断において,特に不整脈が存在する場合のアルゴリズムの改善が必要であることも明らかとなった. 映像脈波から得られる瞬時心拍数以外の生理指標の検討については,接触型の容積脈波に対して用いられる指標である,脈波の立ち上がりからピークに至るまでの時間CTと脈波の2階微分波形の極値の波高比を対象とし,映像脈波から算出したそれらについて検討した.その結果,提案手法で抽出した映像脈波で算出した指標は容積脈波のそれらと絶対値は異なるが強い正の相関を示し,提案手法で得られる映像脈波は接触式の容積脈波と同様の血行動態についての情報を含んでおり,同様の解析方法を一部用いることができる可能性が示唆された. 手の高低差を利用した新たな血行動態の評価では,手を昇降させることにより,掌から得られる映像脈波について上述のパラメータおよび末梢における伝播速度を算出したところ,心臓との高低差に応じて指標が変化することが確認された.これらの結果から,末梢の血圧変化による脈波の変化が得られ,映像のみで高さと脈波の情報を得ることで新たな血行動態に関する指標が得られる可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究計画にそって,(1)撮影法と抽出法の改良による映像脈波の精度向上と瞬時心拍数の算出精度の向上,(2)体位変化を積極的に利用した血圧と血管特性の推定を主に実施した. (1)では,提案手法における周期成分分析(PiCA)ではあらかじめ信号の周期についての情報が必要であり,従来法ではその精度が低いことが課題であったが,PiCAを繰り返し適用する方法によって瞬時心拍数の精度向上が実現できた.同じく精度向上を目標とした偏光の利用については検証のために実験環境を整え予備実験を実施し,検討を開始できた. (2)では,まず,接触式の指尖光電脈波と掌を関心領域として算出した映像脈波双方について,指尖脈波解析で提案されている脈波の特長量について比較した.その結果,脈波の立ち上がりからピークに至るまでの時間CTと脈波の2階微分波形の極値の波高比についは指尖脈波と映像脈波間で強い正の相関が得られた.さらに,手を昇降させた際の掌の映像脈波の結果から,上述の指標が手の高さに応じて変化したことも確認された. 上記の計画した内容に加えて,血管拡張の効果があるとされる炭酸パックを利用して皮下の血行動態の変化を映像脈波によって評価する方法の検討も開始できた.
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今後の研究の推進方策 |
(1)撮影法と抽出法の改良による映像脈波の精度向上と瞬時心拍数の算出精度の向上では,課題として明らかとなった,不整脈が存在する場合の処理および繰り返しおこなう周期成分分析の回数と収束についての検討を行う.また,偏光の利用による精度向上の可能性の調査については偏光カメラの導入を検討する. (2)体位変化を積極的に利用した血圧と血管特性の推定では,手の昇降をおもな体位変化として,血圧推定の可能性の検討を行うとともに,映像脈波の特徴量と現在臨床で用いられている動脈硬化の指標との関係性について検討を行う.また,実用化を考えた際の体位変化の方法についても検討を行う. (3)複数点への伝播モデルを仮定した血管特性の評価指標の提案では,まず最初に脈波の抽出の容易な顔を対象として加温やパックなどの血流変化を生じさせる環境下のデータ取得実験を行う.得られた映像から顔の複数の部位で得られる映像脈波についてブラインド信号源分離(BSS)の手法を応用した血管特性の評価ができるかについて検討を行う.
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