研究課題/領域番号 |
20K12623
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
白吉 安昭 鳥取大学, 医学部, 准教授 (90249946)
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研究分担者 |
經遠 智一 鳥取大学, 医学部, 助教 (60730207)
森川 久未 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (90707217)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オルガノイド / ヒトiPS細胞 / 心筋 / 蛍光タンパク質 / ペースメーカ細胞 / 分化誘導 |
研究実績の概要 |
本研究では、毒性試験や将来の再生医療への応用を目指して、心臓オルガノイドの作製を目的とする。そのための具体的なアプローチとして、心臓を構成する主要な4種のサブタイプ心筋(心房筋、心室筋、洞結節ペースメーカ細胞、刺激伝導系細胞)をヒト多能性から選択的に分取できる実験系を確立し、これらの素材細胞の再組立によって作ることを目指している。本年度は、心臓オルガノイド作製のための基盤技術として、心臓の主要な構成要素である4種のサブタイプ心筋の選別採取法の開発を試みた。 先ず、心房筋と心室筋を選択的に可視化できるヒトES/iPS細胞株の樹立に成功した。具体的には、①心房筋細胞を、ミオシン軽鎖Mlc2aを指標として緑色蛍光タンパク質EGFPによって可視化でき、同様にミオシン軽鎖Mlc2vを指標として、赤色蛍光タンパク質mCherryによって心室筋細胞を可視化できる2重改変iPS細胞株の樹立に成功した。また、②HCN4とMlc2vの共陽性細胞は、刺激伝導系細胞であるという予備的な実験結果が得られていた。しかし、それらを証明することには成功しなかった。これまでの研究から、HCN4陽性細胞として、ペースメーカ細胞を分取できることが分かっていた。しかし、③より詳細に調べたところ、HCN4イオンチャンネル陽性細胞には、典型的なペースメーカ細胞は、およそ30%しか含まれていないことが分かった。そこで、新たにペースメーカマーカーとして知られているShox2転写因子を可視化マーカーとして導入した。 また、オルガノイド作製には、素材細胞の組み立て以外に、臓器幹細胞の特性を生かして、in vitroで幹細胞から臓器を発生分化させる方法もある。そこで、心臓の前駆細胞を選択的に可視化できる細胞株の樹立を試み、2種類ある前駆細胞のうち、第一次心臓領域(FHF)にある細胞を可視化できる細胞株の樹立にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4種のサブタイプ心筋を選別採取できるようになることが、本研究のまず第一歩である。そこで、本年度は、これら4種のサブタイプ心筋の選別採取法の開発を行った。まず、Mlc2aとMlc2vの2つ遺伝子を可視化できる細胞株と心筋分化誘導法を組み合わせることによって、心房筋と心室筋の両者を選択的に採取できることを明らかにした。ただ、分取した心室筋の表現型は安定せず、培養を続けるとやがて心室筋としての特性を失いやすいことが分かった。また、刺激伝導系細胞の分取は、計画していたアプローチ(HCN4/Mlc2vの共陽性細胞として分取)では難しいことも明らかとなった。一方、HCN4に加えて、Shox2を指標とすることによって、より純度の高いペースメーカ細胞の可視化、選択的分取が可能なことが分かった。このように、4種のうち、心房筋とペースメーカ細胞の分取法をほぼ確立することができた。また、安定性にかける点が課題ではあるが、心室筋も分取することができている。上記したように、心室筋の表現型が安定しないなど、素材細胞である4種のサブタイプ心筋の中には、選択的分取法を開発できないものが生ずる可能性も考えられる。そこで、オルガノイド作製の別アプローチとして、心臓の前駆細胞を分取し、それらから心臓を発生分化させることを目指した研究にも着手している。刺激伝導系細胞をどのように分取するかは、大きな課題として残されているが、新しいアプローチも始めている。本年度の研究は、コロナ禍で研究時間が制約されたにもかかわらず、ほぼ計画通り進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)4種のサブタイプ心筋のうち、分取方法の目処が立っていない刺激伝導系細胞の分取法の開発に取り組みたいと考えている。具体的には、イオンチャンネルのβサブユニットとして知られているminK(KCNE1)を指標として、刺激伝導系細胞であるプルキジェ細胞を可視化できるというマウスでの報告がある。そこで、ヒトにおいても当てはまるか否かは不明であるが、minK遺伝座に蛍光タンパク質をノックインし、minK陽性細胞を可視化できるヒトES/iPS細胞株の作製を試みる。なお、刺激伝導系細胞では、HCN4が弱く発現していると考えられており、本研究では、これまでに我々が樹立に成功しているHCN4の発現をEGFPなどの蛍光タンパク質で可視化できる細胞株へゲノム編集法によってノックインする。 (2)確立した分取法を用いて、Mlc2a陽性細胞として心房筋細胞、Mlc2v陽性細胞として心室筋細胞、そしてHCN4/Shox2陽性細胞としてペースメーカ細胞が、計画通り分取できているかを調べる。具体的には、パッチクランプ法を用いて、電気生理学的特性を明らかにする。 (3)HCN4単独陽性細胞として、心筋分化誘導初期には、FHF前駆細胞が分取できることが分かっているので、もう一つの前駆細胞であるSHF前駆細胞の分取法を開発する。 (4)ペースメーカ細胞は、心房筋に接しており、また、再生医療などでは、ペースメーカ細胞を直接心室へ移植する方法も考えられている。そこで、ペースメーカ細胞と心房・心室筋細胞を結合させることによって、簡単なミニ心臓モデルを作る。そして、本研究の目的である心臓オルガノイド作製のための予備実験系と位置づけ、ペースメーカ細胞からの電気刺激の伝達様式、それに対する心房・心室筋細胞の応答性の解析方法などを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、順調にヒトiPS細胞株を樹立することができ、培養経費、分化誘導に使用する試薬等を節約することができた。また、コロナ禍のため、研究時間に制約が生じ、共同研究者の修士課程の学生も、度々、自宅待機あるいは研究活動の短縮を要請され、総実験時間が予定よりも減少した。このため、消耗品経費を中心に余剰金が出た。また、コロナ禍で学会等が、on line開催となり、予定していた出張費が無くなった。このため次年度へ、活動経費として758195円を引き継ぐこととした。 計画していた4種のサブタイプ心筋のうち、心房筋と心室筋、そしてペースメーカ細胞の選択的分取に成功している。そこで、残された刺激伝導系細胞の選択的分取系の開発を、計画にはない新しい方法で試みる。また、分取に成功したサブタイプ心筋(心房・心室筋、ペースメーカ細胞)3種の電気生理学的特性解析を前倒しで進める。コロナ禍の状況にもよるが、次年度、積極的に学会発表等行いたいと考えている。
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