研究実績の概要 |
これまで抜本的な治療法のなかった疾患に対して、治療や創薬の面から再生医療の発展が望まれている。そうした再生医療のリソースとして、ES/iPS細胞や組織幹細胞の応用が期待されている。一方で、それら幹細胞の応用に際しては、残存する多能性幹細胞の混入や遺伝子導入による予期せぬ腫瘍化リスク、時間・コストを要するといった問題点の克服が必要とされている。こうした問題点を克服する手法として、ある種の体細胞から他の種類の体細胞を、多能性幹細胞を経ることなく直接誘導する手法(ダイレクトリプログラミング法)が近年注目されおり、これまでにいくつかの細胞種に関して報告されてきた。しかし、それらはいずれも遺伝子導入を伴うもので、移植後の腫瘍化リスクの問題点などが依然のこる。 そこで所属研究室では、そうした遺伝子導入を用いた既存のダイレクトリプログラミング法の問題点も克服する目的で、遺伝子導入を用いずに低分子化合物を用いたダイレクトリプログラミング法(ケミカルダイレクトリプログラミング法)の開発に取り組み、ヒト線維芽細胞を神経様細胞(Dai et al, JCBN, 2015)や褐色脂肪細胞(Takeda et al, Sci Rep, 2018)へ直接誘導する手法の開発に成功してきた。 最近、ケミカルダイレクトリプログラミングを促進する物質を検索し、アスコルビン酸(AsA)を見出した。AsAはエピゲノム制御などを介して幹細胞の多分化能維持や癌細胞の進行過程などで重要な役割を担っていることが近年明らかになってきており、そういった知見との関連が示唆される。 今後、より安全で高効率なケミカルダイレクトリプログラミング法を開発・応用するためには、細胞リプログラミングの根本原理を理解することが重要である。そこで本研究ではAsAのリプログラミング促進作用に着目し、その作用機序の解明を目指す。
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