再生医療リソースとしてのES/iPS細胞や幹細胞の問題点を克服する方法として、近年、ダイレクトリプログラミングによる「細胞の直接運命転換」が注目されている。これは、移植を伴う臨床応用の際などに、多分化能細胞の混入を防ぐことにより腫瘍化等のリスクの低減が期待されている。一方で、ダイレクトリプログラミングの分子基盤の詳細は不明であり、今後より安全で高効率なダイレクトリプログラミング法を開発・応用するためには、その分子基盤の解明が望まれる。 古くから脂肪分化研究に用いられているMDI法は、脂肪前駆細胞を高効率で脂肪分化させる一方で、線維芽細胞から脂肪細胞への分化効率は低い。我々はこのMDI法による「線維芽細胞→脂肪細胞」の中胚葉由来細胞間での単純な「細胞運命転換」の分化効率の低さに着目し、この系を促進する物質を同定し、その作用機序を解明できれば、ダイレクトリプログラミングの分子基盤の理解に有益な知見が得られると考えた。そこで、いくつかの細胞培養添加物を検討した結果、アスコルビン酸(AsA)がこの脂肪分化誘導系を促進することを見出した。これまでにもAsAが脂肪分化を促進するという報告はあるが、それらは脂肪前駆細胞を用いたもので、分化誘導3日目以降のメカニズムに焦点があてられている。一方で我々は、線維芽細胞の場合は分化誘導初期にAsAを投与することがより重要であることを見出した。 分化誘導2日目までに絞って遺伝子発現変動を調べたところ、AsAの投与により、誘導後48時間において脂肪分化に重要な因子AとBの遺伝子発現が劇的に上昇していた。この遺伝子発現上昇メカニズムの解明を試みたところ、因子AとBの発現を制御することが知られている因子Cのタンパク質レベルでの上昇が確認された。現在、AsAにより因子Cのタンパク質レベルが安定化されるメカニズムの解明に取り組んでいる。
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