本研究では,立位姿勢制御における前庭覚の役割を段階的・定量的に解明することを目指し,音入力を用いた前庭覚機能及び立位姿勢制御機能の新たな評価法を提案・開発した. 本研究の最終年度では,先ず,前庭誘発筋電位(音入力により水平半規管等の前庭覚が刺激された場合に頸部に発生することが知られている筋電位)を計測し,音入力と前庭覚との関係を明らかにした.さらに,我々が提案している重心動揺計測システムを用いて,前庭誘発筋電位を誘発することができる音が,ヒトの立位姿勢に与える影響を調査した.重心動揺の計測では,姿勢制御に関与する視覚・前庭覚・下肢体性感覚のうち,閉眼により視覚情報を遮断し,立位下にラバーシートを設置することで下肢体性感覚情報を攪乱した.結果より,前庭誘発筋電位が誘発される音刺激は,誘発されない音刺激に比べて,有意に重心動揺の総軌跡長を減少させることが示された.このことから,前庭誘発筋電位を誘発する音刺激により前庭覚が刺激され,結果として立位姿勢制御が向上した可能性が示唆された. 加えて,当初は計画していなかった実験として指向性のある音が重心動揺に与える影響を調査した.ヒトは,無指向性の音よりも指向性のある音を用いて音源の位置を把握する能力がある.このことから,視覚や体性感覚が遮断もしくは攪乱されている状態でも,ヒトは,音源の位置情報を用いて重心を制御する能力があると考えた.そこで,指向性のある音を呈示できるパラメトリックスピーカから呈示されたホワイトノイズが,重心動揺に与える効果を検証した.結果より,視覚と下肢体性感覚から得られる情報が遮断もしくは攪乱されていても,ヒトは音源位置の情報を用いて重心動揺をより軽減させることができることが示された.
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