重症心不全患者への長期治療手段として、あるいは、短期間の心機能の代替など、人工心臓は過去数年間で飛躍的に進化し、薬事承認を受けたデバイスも増えた。しかしながら、デバイスの改良が進む昨今、未だに駆動用電力の供給やデバイス制御は皮膚貫通部を設けケーブルを介して直接伝送している。患者は感染症による死のリスクに常に曝されており、科学技術基本計画において掲げられている健康長寿社会実現にむけた大きな障壁となっている。 本研究では、こうした問題に終止符を打つため、感染症リスクを根本から解消する経皮電力伝送システムの開発、健康長寿社会に向け人工心臓にIoT技術を付加する新しい経皮情報伝送システムの開発、上記の経皮電力伝送と経皮情報伝送の一体し信頼性を向上した新デバイスの開発、開発システムの電気安全を実環境と同等に担保するための高性能模擬生体の開発について検討を行った。 研究成果の一例として、経皮電力伝送と経皮情報伝送の一体し信頼性を向上した新デバイスの開発を行っている。ここでは、エネルギー伝送コイルから発生する磁界が上方伝送用コイルに鎖交したときの影響をより低減するため、外周2回巻き8の字形コイルの外周の一部を切断し、電波法の観点から、使用者が免許を取得することなく使用可能な医療用テレメーター用特定小電力無線局に割り当てられている周波数帯である429 MHz帯での情報通信を目的とした情報伝送用コイルの設計し、通信の緒得性評価をおこなった。エネルギー伝送効率は、発泡スチロール挿入時に80.6%、ブタ皮膚挿入時に79.4%のAC-ACのエネルギー伝送効率で体内に駆動用エネルギーを伝送でき、符号誤りなく通信できた。これにより、実装と近い状態でエネルギーと情報の経皮伝送することが可能であり、工学的価値があると示された。
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