研究課題/領域番号 |
20K12636
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研究機関 | 津山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
細谷 和範 津山工業高等専門学校, 総合理工学科, 教授 (60509107)
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研究分担者 |
竹内 一裕 独立行政法人国立病院機構岡山医療センター(臨床研究部), 独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター(臨床研究部), 整形外科医長 (30304306)
小野 敦 川崎医療福祉大学, 医療技術学部, 教授 (20804743)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | MRI / 脳脊髄液 / 流れの可視化 / 流動ファントム / 粒子画像流速測定法 / 数値シミュレーション / 時間分解撮像 / AI |
研究実績の概要 |
本研究では脊柱管を過ぎる脳脊髄液(CSF)をモデルとするMRI用流動ファントムを開発し,摂動する管路内を過ぎる流れの特徴を調べるとともに,外部または内部からの圧迫による流路の変形が液圧の変動や物質輸送に及ぼす影響を調べ,さらにMRI撮像画像からこれらの諸量を推算する方法を得ることを目的とする.2020年度は既存資料や医師の意見等に基づき,弾性管を使った流動ファントムを試作し,管の膨張と弛緩によってヒトのCSFの流れと類似した往復流場を作り出すことに成功した.製作したファントムは頸椎から腰椎にかけての脊髄構造を模し,半透明で柔軟なシリコンチューブを用いた二重円管構造となっており,ベローズポンプによる加圧による膨張と弛緩によって往復流を発生する.設計には薄肉円筒にかかる周方向応力(フープ応力)とひずみの関係式を用いて印加圧力と移動水塊を見積った.ファントムのサイズはヒトの骨格模型に収めることができ,MRIで検査を受ける患者と同じ姿勢でファントムをMRIガントリー内に収めることができる.本年度は,予備調査として,ヒトの呼吸を想定した4秒周期の空圧を印加して駆動させ,MRIによる時間分解撮像(流動観察にはタグを与えた水塊の移動を観察するTime SLIP法を用いた)を行った.この結果,ヒトのCSFと同様に胸椎から腰椎の間(ファントムの中央付近)で1 cm~2 cmの往復振幅を持つ流れが観察された.またファントム内の上部,中央,末端部の三か所に蛍光剤(フルオレセイン溶液)を注入し,往復振幅の程度と,往復流がもたらす水塊混合の様子を観察した.この結果,設計通り,上部ではおよそ5 ㎝の振幅で水塊が移動し,馬尾部に相当する末端部ではほとんど動かないことや,往復流が水塊混合を促進する様子が観察された.以上の結果をとりまとめ,国内学会で成果を報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では初年度に脊柱管を過ぎる脳脊髄液(CSF)をモデルとするMRI用流動ファントムを開発することを主な達成目標としていたが,これについてはおおむね順調に進展した.ただし,2020年度は新型コロナウィルスによる種々の制限に伴い,年度初めより半年にわたって研究室での作業が行えず,また,共同研究も滞ったためにファントム製作とMRIを用いた観察が十分に行うことができなかった.また数値シミュレーションも十分に実施することができなかったため,簡便な計算法として弾性管のフープ応力を用いたCSF流動推算式を作成したところ,良好な再現性を示した.本年度は活動の制限により往復流場の数値シミュレーションや三年目の計画にいれているAIを用いた流動推算の試行など,できる限りの調査を行った.ノンプログラミングのAIツールを用いて,MRI画像と流動方向を紐づけしたアノテーションを行ったところ,数十枚のサンプルでも流れの方向を推定できることがわかった.さらに共同研究者が進める頸椎部位の臨床研究と本課題とが密接に関わる可能性があることがわかり,次年度のファントム製作に頸椎の動きを反映することとなった. 以上の通り,進捗状況はおおむね計画通りであるが,若干の遅れと計画の前倒しが生じた.
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今後の研究の推進方策 |
計画ではより人体の構造に似たファントムを製作し,MRIによる時間分解撮像により,ファントムが作り出す流動が人体のCSF流動の特徴を十分に示すことを確認した後,椎間板ヘルニアなどの疾患を想定した局所的圧迫を与えて観察する.ファントムは初年度の成果を活かし,簡便な弾性薄肉円筒のフープ応力とひずみの関係を基礎として設計し,駆動圧力として,呼吸および心拍によって生じる頭蓋内圧の変化を想定した圧力を印加できるファントムシステムを構築する.人体の脊柱管内は血管や神経根など,複雑な流場となっているが,本研究ではシストやヘルニア等の脊髄疾患によるCSFの流動と患部周辺への圧迫の程度をシミュレートすることを目的としており,簡単な二重円管構造とする.ただし,脊柱管径が腰椎で太くなる点など,簡略化できない点については共同研究者と十分に議論を進めながら設計する.2年目はさらに疾患等による圧迫を想定した流動観察を行うため,MRIによる時間分解撮像に加えて,モデル流路を使ったPIVによる流速計測と内部の液圧測定を行い,圧迫により狭窄した流路の閉塞度と内部流動や圧力とMRI画像との紐づけを試みる.以上の結果をとりまとめ,国内外の会議で報告する. 3年目は MRI撮像画像から内部流動や圧迫の程度を求めるための推算手法を開発する.ここではTime-SLIPを用いて撮像された往復運動する水塊のMRI画像群と実測によって得られた圧力場や速度場データを用いて,画像から流動等を予想する推論モデルの生成が可能かどうか調べる.ここで,MRIが撮像した水塊画像と流速ベクトル場とは単純に紐づけできないため,流速ベクトル場の代わりに主成分分析等によって低次元化した情報を用いる等の工夫を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウィルスの感染拡大に伴う学校及び病院への立ち入り制限等により,MRI撮像と画像処理にかかる作業が減少し,解析作業も既往の設備で行わざるを得なかった.また学会発表などの旅費がオンライン開催により使用されなかった.以上より,次年度使用額に変更が生じた.2021年度も新型コロナウィルスの影響により人の往来や病院での作業に制限が生じることが予想される.このことから当初計画案を修正し,計算機による解析と室内実験を中心に研究を進め,助成金を有効にかつ十分に使用したいと考えている.
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