研究課題/領域番号 |
20K12638
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
閔 庚甫 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 主席研究員 (50596103)
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研究分担者 |
李 鍾昊 公立小松大学, 保健医療学部, 准教授 (40425682)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脳の病態 / 運動病態解析 / 計算モデル / 脳中枢の筋制御仕組み |
研究実績の概要 |
本研究は、脳卒中による運動障害を計測データから定量的に解析することを目的とする。その解析のために、神経生理のデータに基づき、運動制御のための筋の協調制御を行うための制御仕組みが脳中枢にあると想定した。この制御仕組みは、大脳基底核や小脳などの運動制御部位からの運動制御信号が一次運動野(M1)におけるニューロン活動としてコード化され、皮質脊髄路を通って筋を制御する仕組みである。そのため、脳卒中によって上記の運動制御部位に異常が生じた際には、M1のニューロン活動の異常を引き起こし、運動障害が生じる。特に、運動制御の際には、学習や経験によって得られた運動スキルの再利用が大変重要な役割をするため、運動障害を解析する上でも、脳中枢におけるこの仕組みの解明は大変重要である。この制御仕組みの解明のために、大脳基底核と皮質脊髄路の神経生理の構造に基づき、脳中枢における学習済みの運動スキルの再利用の仕組みを提案し、計算シミュレーションによってその妥当性を示した。この成果は、査読付きSCI論文誌であるFrontiers in Computational Neuroscienceに掲載した。また、日本神経学会開催の国際学会であるNeuroscience 2020において同研究結果を発表した。 また、上記のM1のニューロンには、大脳基底核や小脳から、運動を実施するための筋制御信号が入力されるが、この信号には、運動実施のための運動方向、速度、加速度の三つの要素に対する筋制御信号が含まれている。この仕組みを用いた計算モデルを構築し、筋電図信号から上記の三要素の働きをベクトル成分として解析できた。この成果は、交付申請書[D-2-1]の「補助事業期間中の研究実施計画」で述べた研究計画の①と②を満たすものであり、臨床研究における疑義の詳細は下記の7の「現在までの進捗状況」を参照されたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筋骨格系の計算解析モデルを用いて、関節の運動経路における被験者の固有感覚情報に基づく複数のモータプリミティブ(MP)の検出とその協調関係の解析を行った。主に、目標とする運動経路である運動方向、速度、加速度の要素に対して、既存の臨床実験によって得られたM1における上記の各々の運動要素に反応するcorticospinal neurons (CSTs)の活動の割合を適用したMP間の協調制御仕組みの計算解析モデルを構築した。この計算モデルを用いて、手首運動の際の筋電図信号におけるMPの協調関係の解析を行い、同協調状態の数値による定量的な解析を可能にした。この解析から得られたMPの協調制御によって生成された筋活性度の筋電図信号への割合は、CSTs の運動制御における貢献度を表すと考えられる。そのため、この解析結果は、CSTsと共に筋制御に関わる「脊髄の中間ニューロンを経由しないで直接に個々の筋を制御するcortico-motoneuronal cells (CMs)」の筋制御への割合も定量的に示すものであるため、令和2年度の研究目標である「CSTsとCMs間の協調関係の解析」に貢献できる成果である。この研究成果は、被験者の運動制御の状態に関する定量的な解析に関わるものであり、本研究の主な目的である脳卒中による運動障害や病態の定量的な解析による臨床研究においても価値ある成果である。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度までは、上記の「7.現在までの進捗状況」に述べたように、脊髄におけるモータプリミティブ(MP)間の協調制御状態や皮質脊髄路における二つの筋制御方策間の協調制御状態を定量化に解析する計算モデルを構築した。主に、M1のニューロン活動に関わる運動プランの三要素である運動方向、運動速度、運動加速度の「脊髄におけるMP間の協調制御」への関わりを計算モデル(7.現在までの進捗状況参照)化したが、三つの要素における重みを神経生理データに基づき、常数として与えた。今後は、計算モデルを用いてM1におけるニューロン活動への三つの要素の関わりを複数の被験者を対象に再度検証する。これにより、被験者やその運動状態によって計算モデルにおける三つの要素の重み変化を分析、M1のニューロンレベルにおいても被験者の運動状態の定量的な解析が可能な計算モデルの研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス蔓延防止のため、被験者のデータの測定が困難であった。そのため、主に、費用が掛からない、測定済みの被験者データを用いての計算モデルの開発やそのシミュレーションモデルの研究に従事した。次年度は、コロナウイルス感染状況を考慮しながら、できる限り、被験者データの測定を行う予定であり、必要な装置を購入する予定である。
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