研究課題/領域番号 |
20K12643
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
田中 隆志 東京農工大学, 農学部, 産学官連携研究員 (00868200)
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研究分担者 |
中澤 靖元 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20456255)
朝倉 哲郎 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (30139208)
田中 綾 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70334480)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 間質血管細胞群 / シルクフィブロイン / 人工血管 |
研究実績の概要 |
本研究では、足場材料としてシルクフィブロイン製人工血管を用い、これに間質血管細胞群を併用することで、そのリモデリング能力を向上させることが可能であるかを検討し、これまで人工血管が不適であった肝胆膵癌の血管再建手術への適応可能な人工血管を開発する。 現状では静脈用に開発された人工血管は存在しておらず、本研究で使用するシルクフィブロイン製人工血管が静脈置換する人工血管に適しているのか、既存の動脈用の人工血管との比較を行なった。シルクフィブロイン製人工血管は移植4週間後に血管内皮細胞が人工血管の内側を中皮細胞が人工血管の外側を覆っている事が観察された。このことから、シルクフィブロイン製人工血管は移植後に自己組織にリモデリングする能力の高い人工血管であるということが判明した。リモデリングが進めば感染にも強くなるため、肝胆膵領域における人工血管としては有用であることが考えられた。 次に犬の間質血管細胞群の最適な採取部位を評価することを目的とし、腹部皮下脂肪、肝鎌状間膜および卵巣周囲脂肪を採取した。卵巣周囲脂肪には他の部位に比べてより多くの間質血管細胞が含まれていて活性が高い事が示された。このことから、実際の人工血管の移植を行うにあたり、より最適な部位から間質血管細胞を採取することが可能となった。 さらに人工血管のコーティングにおいて、従来であればシルクフィブロインで行なっていたが、エラスチンを用いてコーティングを行うことで、基盤の隙間にコーティング材が入り込むことにより強固なコーティングが可能となった。また、エラスチンの成分によってリモデリングの促進、血管内皮細胞の付着促進および血小板の付着の抑制などの効果が示された。これらの結果から、静脈用のシルクフィブロイン製人工血管においてエラスチンは優れたコーティング材であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
静脈用に開発された人工血管は存在しておらず、現状ではどの素材の人工血管が静脈に適しているかは不明であった。本研究において、シルクフィブロイン性の人工血管は静脈においても、高い開存率とリモデリング能力を発揮し、静脈用の人工血管の基盤として優れている事が判明した。 また、犬における最適な間質血管細胞群(stromal vascular fraction: SVF)の採取部位の確立に成功した。具体的には未避妊の雌犬における卵巣周囲の脂肪においてより多くのSVFが含まれている事が判明した。このことから移植手術を行う際のSVFをより有効に採取する事が可能となり、移植後の人工血管のリモデリングに有利に働く事が考えられる。さらに、人工血管のコーティング材としてはエラスチンが人工血管に強度やリモデリング能力を向上させる効果が認められた。 以上の結果から静脈用の人工血管としての基盤、コーティング、間質血管細胞群の採取部位の特定が進み、実験はおおむね順調に進展しているとの判断を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
採取したSVFを人工血管へ播種して吸着させるが、人工血管は内壁が血流にさらされるデバイスであることから、播種されたSVFが血液に流されずに残存できるか検証を行う予定である。また、移植実験を行う事が考えられているラットについての最適なSVFの採取部位の検討についても同時に行う予定である。 また、エラスチンコーティングの人工血管の評価を静脈へ移植を行い、より詳細なリモデリング能力についての評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会等が中止となり、旅費による経費が生じなかった。 翌年度は動物実験などによる移植や動物飼育費用にあてる予定である。
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