研究課題/領域番号 |
20K12645
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
下田 麻子 京都大学, 工学研究科, 特定研究員 (90712042)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞外小胞 / 基質小胞 / 糖鎖 / レクチンアレイ |
研究実績の概要 |
細胞外小胞は、その内部に含まれるタンパク質やmiRNAを受け手側への細胞へと運ぶことで様々な生命現象に関与している。しかし、多様性を示す集団である細胞外小胞の分離技術や細胞との相互作用メカニズムは未だ確立していない。これまでに細胞外小胞表面糖鎖に着目し、細胞への取り込み機構に糖鎖が関与していること、また細胞種の違いでそのパターンが大きく異なることを見出している。このことから、細胞外小胞表面糖鎖情報はその多様性を評価する有用な方法であると言える。 本研究では細胞外小胞および石灰化に関与する基質小胞の2種類の小胞を分泌する骨芽細胞に着目し、骨代謝における役割を糖鎖の観点から比較する。これらの小胞はその分泌経路や骨代謝における機能は不明な点が多く、また糖鎖が示す役割についてはほとんど知られていない。そこで、細胞外小胞が糖鎖を介し、骨関連細胞への相互作用がどのように行われているかを明らかにする。さらに、細胞外小胞や基質小胞の表層糖鎖を改変することにより、細胞への機能がどのように変化するかを評価する。 ヒト脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)、骨芽分化誘導ADSC、マウス軟骨前駆細胞(ATDC5)から細胞外小胞および基質小胞を超遠心分離法によって回収したところ、各細胞から150-200 nmの粒子が得られた。レクチンアレイを用いて表層糖鎖解析を行ったところ、細胞の種類により表層糖鎖パターンが異なることがわかった。さらに、酵素を用いた未分化ADSC由来細胞外小胞の表層糖鎖改変により、細胞への取り込み能が変化することを見出した。今後は得られた粒子と細胞との相互作用を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの検討により、ADSCは骨芽分化誘導培地を用いて21日前後培養することで骨芽細胞へと分化し、細胞外小胞および基質小胞が得られることがわかっている。レクチンアレイを用いた糖鎖解析により、骨芽分化誘導前後で数種類のレクチンへの結合強度が異なることをすでに報告しており、細胞外小胞表層糖鎖の分化マーカーとしての有用性を示唆している。また、分化誘導21日後に得られる細胞外小胞と基質小胞ではタンパク質および糖鎖プロファイルが異なり、結合量に差が見られたレクチンを用いたレクチンブロット法では異なるバンドパターンが検出された。さらに、基質小胞は骨芽細胞だけではなく肥大軟骨細胞からも分泌されることから、軟骨分化モデルとしてよく用いられているATDC5細胞からまずは細胞外小胞を回収し糖鎖解析を行った。まずは分化誘導35日後と分化誘導前の細胞外小胞表層糖鎖の解析を行ったところ、いくつかのレクチンで結合強度に差が見られた。今後はATDC5細胞からも基質小胞の回収を行い、さらなる機能評価を行う。
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今後の研究の推進方策 |
ADSCを用いた骨芽分化誘導はこれまでの検討で確立したプロトコールを用いて引き続き機能評価を行う。ATDC5に関してはADSCを用いる系と比べて安価な培地を用いて培養が可能であることから、大量のサンプルの回収が可能である。今後は軟骨細胞由来タンパク質発現の有無の確認や基質小胞の回収を行い、骨芽細胞由来の粒子との比較を行う。 予備実験として酵素を用いた未分化ADSC由来細胞外小胞の表層糖鎖改変により細胞への取り込み能が顕著に変化することを確認している。骨芽または軟骨分化誘導後の細胞外小胞においても同様の検討を行い、骨代謝関連細胞との相互作用への影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会および国内学会の中止、購入した細胞の到着に時間がかかったことなどから、予定よりも少ない支出となった。
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