研究課題/領域番号 |
20K12646
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐々木 尚子 大阪大学, 工学研究科, 特任研究員(常勤) (10388762)
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研究分担者 |
松崎 典弥 大阪大学, 工学研究科, 教授 (00419467)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | コラーゲンマイクロファイバー (CMF) / P. gingivalis / 上皮細胞層 / 血管網構造 |
研究実績の概要 |
コラーゲンマイクロファイバー (CMF) を用いて作製した歯肉モデル組織において、歯周病の原因菌である Porphyromonas gingivalis の挙動を長期間にわたり検証するためには、P. gingivalis の感染を維持する必要がある。そこで、P. gingivalis を感染させた歯肉モデル組織中における菌数の経時時間変化を解析した。その結果、感染 24 時間後、P. gingivalis の菌数は歯肉モデル組織中で約2倍まで増殖し、少なくとも二日間はその数を維持していた。このことから、P. gingivalis は歯肉モデル組織において、生存・増殖することが可能であることが示唆された。 P. gingivalis が歯肉組織表面から結合組織層中の血管網へ移動するためには、上皮細胞層を通過しなくてはならない。しかし、P. gingivalis が細胞内を通り抜けて下層へ移動するのか、もしくは細胞間隙を通り抜けて移動するのか明らかになっていない。そこで、メチル-β-シクロデキストリン (MβCD) 処理で細胞膜のコレステロールを除去し、歯肉上皮細胞への侵入を阻害することにより、P. gingivalis が細胞内へ侵入できるか確認した。2次元培養の歯肉上皮細胞の場合は、細胞内へ侵入した P. gingivalis の数は減少していた。3次元歯肉上皮細胞層の場合は、MβCD で処理しても、P. gingivalis の透過性は時間依存的に増加したことから、MβCDは上皮細胞層における菌体の透過性を抑制する効果を示さなかった。これらの結果から、P. gingivalis は細胞内経路ではなく、細胞間隙を主な移動経路として歯肉組織深部への移動を行なっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施予定であった P. gingivalis 感染組織中における菌数の解析を、P. gingivalis 特異的 PCR プライマーを用いることにより、定量的に解析することが可能になった。これにより、嫌気性菌である P. gingivalis が歯肉モデル組織内で増殖し、少なくとも二日間は維持されていることが確認できた。さらに、ヒト由来組織は複数の口腔内細菌に感染しているが、本モデル組織は P. gingivalis のみの感染状態を作り出すことができ、 MβCD などの阻害剤を用いた実験にも活用できることを実証したことにより、本モデル組織の有用性を示すことができた。また今後、長期間にわたり、P. gingivalis が血管内に侵入するまでの動態について検証を進める。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、P. gingivalisの感染と血管網構造の関係性に重点を置いて実験を進める予定である。 血管内皮細胞に侵入した P. gingivalis の組織内における動態を検討するために、 1. P. gingivalis を感染させた血管内皮細胞を用いて、歯肉モデル組織を構築し、血管網構造の形成を評価する。 2. 歯肉組織の上部に P. gingivalis が感染することで、血管網の局在性に変化は見られるか解析する。 3. 歯肉モデル組織から P. gingivalis が感染した血管内皮細胞を抽出し、細胞接着分子の発現変化を調べる。そして、上皮細胞層におけるバリア機構の破綻との相違点を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
『理由』 新型コロナウイルスの蔓延に伴い、参加を予定していた学会がオンラインでの開催となったため、旅費および学会参加費として計上していた予算が予定通りに使用できなかった。 『使用計画』 組織解析やフローサイトメトリーを行うために、抗体や蛍光色素を購入する。また、歯周病菌の長期感染実験を予定しているので、歯肉モデル組織を作製するための材料や、組織を維持するための培養機器や培地などが多く必要になるので、その購入に充てる予定である。
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