研究課題
前年度は、片側の顔面部に末梢投与されたA型ボツリヌス神経毒素(BoNT/A)が、抗がん薬誘発性神経障害性疼痛モデルラットだけではなく、眼窩下神経を結紮した三叉神経障害性疼痛モデルラットにおいても両側性の鎮痛効果を示すことを明らかにした。本年度は、片側に投与されたBoNT/Aが両側性の鎮痛効果を示す作用機序を明らかにするために、片側の顔面部に末梢投与されたBoNT/Aの局在部位を調べた。神経細胞結合ドメインであるBoNT/Aの重鎖C末端側領域(約50 kDa, BoNT/A-Hc)のリコンビナントタンパク質をAlexa Fluor-488で蛍光標識して、ラットの片側の顔面部に末梢投与して蛍光顕微鏡により観察をした。コントロールとしては、Alexa Fluor-488色素を単独で投与した。以前の研究により、末梢に投与されたBoNT/Aは神経終末から取り込まれ軸索を逆行輸送されて、三叉神経節で神経伝達物質の遊離を減少させることにより疼痛抑制効果を発揮する可能性が示されていることから、両側の三叉神経節を観察したところ、Alexa Fluor-488蛍光標識BoNT/A-Hc投与側だけでなく、非投与側の三叉神経節においてもBoNT/A-Hcが局在していることが明らかとなった。このことから、片側の顔面部に末梢投与されたBoNT/Aは投与側だけでなく非投与側の三叉神経節にも移行して、両側性の疼痛抑制効果を発揮している可能性が示唆された。また、片側の顔面部に末梢投与されたBoNT/Aの血液への移行性も調べて、BoNT/Aの一部は血流を介して輸送されることも示した。
3: やや遅れている
前年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の影響もあり、当初予定していたBoNT/Aの投与により発現量が変化する分子の探索は出来なかった。しかしながら、片側の顔面部に末梢投与された蛍光標識BoNT/A-Hcが投与側だけでなく非投与側の三叉神経節にも局在することを明らかにすることが出来て、片側に投与されたBoNT/Aの直接的な機能部位が両側の三叉神経節であることが示唆された。また、当初は予定していなかったが、末梢に投与されたBoNT/Aの血液への移行性を調べた。
BoNT/Aは、金属プロテアーゼであり、SNAP-25を切断することにより神経伝達物質の遊離を阻害する。片側の顔面部に末梢投与された蛍光標識BoNT/A-Hcが投与側だけでなく非投与側の三叉神経節にも局在することが明らかとなったので、今後はBoNT/Aが両側の三叉神経節で直接的に作用していることを確認するために、両側の三叉神経節でのSNAP-25の切断を免疫組織染色あるいはWestern blottingで調べる予定である。また、BoNT/Aの投与により発現量が変化する分子の探索も行う予定である。
研究がやや遅れているために次年度使用額が生じた。実施できなかった研究を次年度に実施して使用する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Toxins
巻: 13 ページ: 704
10.3390/toxins13100704