研究実績の概要 |
本研究では、まずsiRNAを肝臓へ選択的に送達することが可能な肝指向型三元複合体の構築を行った。siRNAに正電荷化合物を結合し、正電荷の微粒子を調製し、さらに肝臓への指向性を有するグリチルリチン酸(GL)を結合させることで肝指向型三元複合体を調製した。様々な化合物を単独または併用して検討を行った結果、siRNAに正電荷脂質である1,2-dioleoyl-3-trimethylammonium-propane chloride(DOTAP)と膜融合脂質として古くから知られている1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(DOPE)を添加し、最後にGLを結合させる事で安定な肝指向型三元複合体が調製できた。このsiRNA/DOTAP-DOPE/GL複合体は粒子径が約120 nmで表面が負に帯電した微粒子であった。 ホタルルシフェラーゼを恒常発現させたマウス肝臓系細胞株であるHepa1-6 Luc細胞にホタルルシフェラーゼのsiRNAを搭載したsiRNA/DOTAP-DOPE/GL複合体を添加したところ、Hepa1-6 Luc細胞におけるルシフェラーゼの発現を有意に抑制することができた。また、このsiRNA/DOTAP-DOPE/GL複合体は細胞障害性が低く、赤血球との凝集や溶血を示さなかった。 蛍光標識したsiRNA/DOTAP-DOPE/GL複合体をマウスに静脈内投与すると、そのほとんどが肝臓に集積した。そこで、肝臓の繊維化に重要な働きを示すTGF-βのsiRNAをsiRNA/DOTAP-DOPE/GL複合体に搭載し、マウスに静脈内投与した結果、肝臓のTGF-βのmRNA量を顕著に抑制できた。 さらに、我々が既に報告している肺への標的化技術(Journal of Controlled Release, 136, 213-219, 2009)に肝指向型三元複合体で得られた知見を応用することで、より安全かつ効率的に肺にpDNAを送達できる肺指向型複合体を構築できた。この肺指向型複合体にTGF-βのshRNAを発現するpDNA搭載し、肺線維症モデルマウスに投与した結果、肺の繊維化を有意に抑制することに成功した。
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