本研究では、血管新生誘導による下肢慢性動脈閉塞症の治療を目指し、アンチmiRNAオリゴ核酸(AMO)を用いた核酸医薬の創製を試みた。論文調査により、血管新生に関わる8種のmiRNAを選定し、それらに相補的なS化体あるいはLNAをAMOとして用いた。HUEhT細胞(不死化ヒト臍帯静脈内皮細胞)での試験から、3種のAMO(92aS、21S、221S)が高い創傷治癒効果を示した。さらに、チューブフォーメーション試験にて平均チューブ長やループ数などを分析したところ、92aSが最も高いチューブ形成誘導能(血管新生能)を有することがわかった。 AMOを血管内皮細胞に送り届けるキャリアとして、本研究ではポリ乳酸からなるナノ粒子を作製した。一つはAMOを表面に結合させたナノ粒子(結合型ナノ粒子)であり、もう一つはRGDペプチドを表面に配し、かつAMOを内部に封入したナノ粒子(封入型ナノ粒子)である。封入型ナノ粒子は、HUEhT細胞に顕著に取り込まれたことから、RGDペプチドとインテグリンとの特異的な相互作用が示唆された。これらのナノ粒子とAMOを用い、HUEhT細胞の創傷治癒およびチューブフォーメーション試験を実施した。どちらの試験でも、92aSを用いた結合型ナノ粒子および封入型ナノ粒子が高い効果を示した。 以上より、本研究では、培養細胞を用いた2つの血管新生モデル試験からmiRNA92aに相補的なS化体(92aS)が最も血管新生誘導能が高いことを見い出した。また、92aSを用いた結合型ナノ粒子および封入型ナノ粒子でも、血管新生を誘導できることが明らかになった。その効果は92aS単独と比べ優位ではなかったが、封入型ナノ粒子は全身投与によるアクティブターゲティングが期待できることから、臨床ではQOL低下を防ぎAMOを血管内皮細胞に特異的に送達し血管新生を誘導できると考えられる。
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