研究課題
感染症治療薬としてのペプチドの有効性は広く認識され、病原微生物に親和性を有するペプチドが継続的に報告されている。当該研究事業では、種々の異なる阻害様式をもつ抗微生物ペプチドをプロテアーゼ切断配列等のペプチドユニットで修飾して繰返し配列化したキメラポリペプチドと、生体吸収性人工エラスチンとを合理的にハイブリッド化した、「人工多機能性バイオポリマー」を創成し、多価効果により最も薬効を発揮する組合わせの探索を目的とする。初年度の令和2年度は、抗微生物ペプチドをコードする人工遺伝子ライブラリーの充実化について、抗菌活性を示すペプチド性化合物に焦点を当てた。最近5年間に新たに報告された抗菌活性が高いペプチドの情報を網羅的に文献調査し、有力であると判断された3種について人工遺伝子として分子設計し、これらを繰り返し配列化して数十種類の人工遺伝子とし、ライブラリーに追加した。ループリンカー、ヘリックスリンカー、細菌プロテアーゼ認識ペプチド、オートファジー誘導ペプチド等、ペプチドモノマー遺伝子を高分子化する際の修飾ユニットについても人工遺伝子としてクローニングし、ライブラリーの充実化を進めた。抗HIVに関しては、きわめて短い時間接触させるだけでウイルスの感染性を不活化する低毒性の高分子化合物を見出した。従来の抗HIV評価手法に改良を加え、検体との瞬間的な接触の有効性を評価する試験系を構築できたことが、この発見に繋がった。本試験系は、抗HIV性人工多機能性バイオポリマーの新たな評価系として有用である。
3: やや遅れている
ダイヤモンド・プリンセス号の横浜港入港以降、研究代表者が所属する聖マリアンナ医科大学の大学附属病院に新型コロナウイルス感染症患者が搬送されるようになり、大学病院サポート業務として、PCR検査系の立ち上げなどの非常時の防疫業務を優先しなければならない事態となり、研究の進捗が止まった。この状況は8月まで続き、さらに、同年度9月に研究代表者が昭和薬科大学へ異動となった。これに伴って当該研究事業遂行に必要な実験機器の移設や、新たな機器購入の必要性が生じ、全体的に研究の進行が遅れてしまったが、令和3年度に挽回したい。
まずは抗菌活性をもつペプチドの人工遺伝子化に集中的に取り組む。特に令和2年度前半に、モノマーユニットのクローニングを優先的に進める。これと平行して、化学合成したモノマーユニットペプチドについて、代表的な細菌の標準株に対する抗菌活性を測定し、文献報告値との整合性を確認する。また、バイオポリマーのリコンビナント体調製については、抗菌性ポリペプチドの安定発現を狙ったアニオン性人工エラスチンペプチドの遺伝子レベルでの設計・調製、そしてこれらのキメラ分子の人工遺伝子の作製を進める予定である。
新型コロナウイルス感染症対応および研究代表者の所属機関変更により研究の進捗が止まり、計画にやや遅れが生じた。しかしながら、遅延の程度は十分にカバーできる範囲内であり、計画に変更の必要はないと判断している。前年度の残予算は、令和3年度に実施する人工遺伝子クローニング、バイオポリマーの調製および物性評価に関する物品費に全額を充てる予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件)
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