研究課題
感染症治療薬としてのペプチドの有効性は広く認識され、病原微生物に親和性を有するペプチド(抗微生物ペプチド)が報告され続けている。当該研究事業では、種々の抗微生物ペプチドを鎖状化したキメラポリペプチドと、生体吸収性人工エラスチンとを合理的にハイブリッド化した、「人工多機能性バイオポリマー」を人工遺伝子として分子設計する。多価効果により最も薬効を発揮する組合わせの探索、および薬物送達を視野に入れた機能解析を実施し、その成果を次世代の抗微生物材料開発や抗微生物創薬へのシーズとして社会に還元することを目的とする。令和3年度は前年度に引き続き、まず、ライブラリーの充実化を進めた。特に、抗微生物ペプチドのなかで病原細菌に対して殺傷能力をもつ抗菌ペプチド候補を絞り込み、人工遺伝子としての分子設計およびクローニングを実施した。人工遺伝子はプラスミドDNAとして大腸菌を用いて調製した。複数種の抗菌ペプチド遺伝子について、ある一定の繰り返し数に達すると、論理的には可能であると考えられる鎖状化反応が、それ以上は進まなくなるという稀な現象に遭遇した。これに関しては、令和2年度に調製していたループ/ヘリックスリンカーを介在させることで克服可能であった。また、2種類の抗菌ペプチドについて、鎖状化したポリペプチドと生体吸収性人工エラスチンとをハイブリッド化したバイオポリマーを発現し、その性状および抗菌機能解析を実施した。研究計画書に明記しているように、得られた結果をフィードバックして新たな分子設計に繋げているところである。
2: おおむね順調に進展している
異動先の研究環境整備が終わり、当該研究事業を進める設備環境が整った。抗微生物ペプチドのなかで抗菌ペプチドに焦点を当て、情報検索・人工遺伝子設計・人工遺伝子の鎖状化・バイオポリマー発現・機能解析のサイクルを回すことができた。令和2年度の報告書作成期での進捗状況は、前所属機関での新型コロナ検査サポート業務に従事せざるを得ない状況であったため、当該研究事業は計画当初よりもやや遅れていたが、その状況下であっても地道にライブラリー作製を進めてきた。今年度は想定外の稀な現象により研究事業の進捗が阻まれそうになったが、前年度に調製していたライブラリーが役立って問題点を克服でき、一気に機能解析、そして分子設計の改良ステージにまで繋げることができた。全体を俯瞰すると、抗菌ペプチドの進捗状況に関しては概ね順調であると考えている。
抗微生物ペプチドの中で抗菌ペプチドに焦点を当てて進める。令和2年度に実施した鎖状化抗菌ペプチドの機能解析によって得られた情報をフィードバックして、より強い抗菌活性をもつであろうペプチドを新たな人工遺伝子として分子設計する。調製したバイオポリマーに関して、代表的な病原細菌への抗菌活性を測定し、モノマー分子との活性の比較、既存の低分子抗菌薬との相加・相乗効果の有無に関して精査する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) 産業財産権 (2件)
BUNSEKI KAGAKU
巻: 71 ページ: 179-185
Medicines (Basel)
巻: 8 ページ: e33
10.3390/medicines8070033
J. Clin. Lab. Anal.
巻: 35 ページ: e23992
10.1002/jcla.23992
巻: 8 ページ: e56
10.3390/medicines8100056
Bioorg. Med. Chem.
巻: 51 ページ: 116498
10.1016/j.bmc.2021.116498