癌細胞が熱に弱いことを利用して,磁性体を癌組織に埋入して交流磁場を印可し,非侵襲的に癌の加温治療を行う磁気ハイパーサーミアの実現に向けた研究が行われている。この手法の問題点として過熱による正常細胞へのダメージがあるが,過熱を防ぐために温度を監視するには温度プローブを刺入する必要があるため,利点である非侵襲性が損なわれる問題があった。本研究ではこれを解決するために,磁性ナノ粒子の交流磁場に対する非線形磁化と緩和現象を利用し,発熱体となる磁性ナノ粒子そのものを温度プローブとして用いることで非侵襲的に温度を測定し,定温加熱システムを実現することを目的として研究を行った。 最終年度は前年度までに行った直流磁場による定温制御手法を適用して非接触で温度推定しながら定温制御するために,試料に交流磁場と垂直方向に直流磁場を印加した状態での交流磁化の3次高調波信号の位相信号を用いた温度推定を実施した。その結果,3次高調波信号の位相変化と温度の関係は,直流磁場が小さい場合に線形的であるが,直流磁場強度の増大とともに線形的な変化から大きく逸脱していくため,位相からの温度変換の精度が著しく低下することが分かった。この結果から定温制御時に印加される強い直流磁場下においては,非接触で温度推定しながら定温制御することが困難であることが示唆された。そこで印加する直流磁場方向を交流磁場と垂直から,平行方向に変えて同様の実験を行った。この場合,磁化曲線は直流磁場強度だけシフトし,磁場の奇関数でなくなるため2次高調波成分が生じる。光ファイバー温度計で実測した温度に対して2次高調波位相は印加直流磁場に関わらず線形的な変化を示すことが分かり,2次高調波位相を使用することにより直流磁場下で温度推定しながら定温制御が可能であることが示唆された。
|