脳内の温度分布を,外部から侵襲することなく推定するために,内部状態推定アルゴリズムを構築し,その適切な利用について,脳温分布可視化シミュレータで検討した.数理シミュレータ上では数理脳モデルによる脳内外の熱産生と熱移動を計算している.従来の数理シミュレータで,人体脳のパラメータを与えたモデルは,その値を適切に設定することで健常時および病態の温度分布を表示可能である.本研究ではこのモデルを臨床の患者脳を代用するMasterモデルとして定義付け,この内部状態を推定するためのSlaveモデルを新たに追加して,2つの数理モデルを1つの数理シミュレータ上で並列計算できるようにシミュレータを改良した.脳に入出力する血流の温度変化に注目して構築した内部推定アルゴリズムによって,MasterモデルおよびSlaveモデルに入出力する血流温度の差分から,脳内の代謝状態を推定し,この値を用いて脳内の温度分布を推定する数理シミュレーションをおこなった.選択式脳低温療法を想定し,脳内の温度管理を前提として,推定にかかる時間および推定中の脳温推移が最適となるような推定アルゴリズムの演算パラメータを,数理シミュレーションを繰り返しにより決定した.この結果から,脳低温療法中に侵襲なく測定可能な患者の血流温度を利用して脳内温度分布を推定可能であること,脳温管理に活用できることの示唆を得た. 次に,上述の技術が実機で活用できることを確認するために,模型脳を用いた温度管理実験をおこなった.実験システムの測定データから温度分布の推定をおこなうために,数理シミュレータをさらに発展し,読み込んだデータを利用して温度推定するモードを開発した.実験データから一定程度の推定が可能であることが示されたが,測定時の誤差やサンプリング間隔の違いから,推定値との差分を生じることが確認され,実験システムの改良が必要であるとの示唆を得た.
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