研究課題/領域番号 |
20K12665
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
蜂屋 弘之 東京工業大学, 工学院, 教授 (90156349)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超音波医学 / 定量診断 / shear wave / エラストグラフィー / 組織鑑別診断 / レイリー分布 / 肝炎 / びまん性肝疾患 |
研究実績の概要 |
肝線維化は肝発癌と密接に関連しており,線維化の定量評価手法の開発が望まれている。本研究の目的は,慢性肝疾患により変化する複数の生体組織音響特性を用いて,臨床的に十分なロバスト性を持つ非侵襲な慢性肝疾患の定量診断手法を確立することである。第1年度は,線維化による散乱体分布の変化を超音波反射信号の振幅確率密度の変化から検出する方法の高精度化と,生体中のせん断波の伝搬特性の変化の検出方法の検討を行った。 びまん性肝疾患の線維化は,肝臓内の超音波反射点の分布を変化させる。このため,超音波エコー信号の振幅確率密度が変化するので,この変化から線維化の程度を定量的に評価することができる。この定量化のため,これまで複数のレイリー分布を用いて振幅確率密度をモデル化するマルチレイリーモデルを提案し,有効性を示してきた。2020年度は,初期病変のわずかな変化も精度よく検出するために,分布関数の非整数次モーメンを逆問題の入力に用いる方法を新たに検討した。分布関数の平均値周りの非整数次モーメントを用いることで,分布関数の平均値以下の振幅部分の感度を変化させることが可能になり,初期病変の検出精度を高めることが可能になった。 生体中のせん断波は,病変による生体組織の剛性率変化により,伝搬特性が変化する。生体組織は粘弾性体のため,せん断波の伝搬速度は周波数により変化する分散性があることが指摘されている。しかし,粘弾性体であれば,伝搬速度のみでなく,減衰の値も変化する。 2020年度は,生体組織の粘弾性特性とせん断波の伝搬速度,減衰の分散性の関係と,分散特性から生体組織の粘弾性特性を精度良く求める方法を,ファントムを用いて検討した。その結果,せん断波の複素波数を複素面上で求めると,伝搬速度を単独で測定し,粘弾性特性を推定する方法と比較して,精度よく肝臓の病変変化を検出できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝線維化の定量評価について,複数の方法で検討を行った。超音波エコー信号の振幅確率密度を用いる方法は,これまで検討を進めてきてはいたが,初期病変の検出精度については,不安定となる場合があり,安定な検出手法の確率が望まれていた。第1年度は,推定アルゴリズムの入力パラメータを最適化することで,初期病変の検出精度の向上ができることが明らかになり,振幅確率密度を用いる手法に関しては,研究当初の第1年度の目標が達成できた。 せん断波を用いる方法については,せん断波の複素波数を用いた分散性の推定方法で,病変による変化の検出精度を高めることができ,これまでの方法よりも安定な推定ができることが明らかとなった。また,病変推定に適切な粘弾性モデルについても検討を行い,推定精度への影響も評価できた。この点については,当初の予定が達成できている。ただ,コロナ禍の影響で,実際の臨床データの検討や,ファントム実験などが制約を受け,実データによる検証に不十分な点がある。この点については,第2年度以降に追加実験等を行いながら,検討を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
第2年目は,まず,粘性を考慮できる生体組織ファントムを用いて,音響特性変化と超音波エコー信号変化,およびせん断波の伝搬状況の測定を行い,順問題の検討を行う。生体を伝搬する横波であるせん断波は,縦波超音波の伝搬速度1540 m/s と比較し,周波数は数100Hz以下,伝搬速度数m/s と,波動としての性質に,非常に大きな差があり,十分な検討が必要である。そして,体表の脂肪組織の影響や音速の違いによる音波の屈折,臓器内での多重散乱の影響など,複雑な音響現象もとりこめるように,計算機シミュレーションモデルを構築し,ファントムによる実験とも比較する。これらの結果をもとに,超音波エコー信号・横波音速・減衰と組織構造変化の間を記述する組織音響特性変化モデルを確立する。 順調に順方向問題の検討が進行した場合は,臨床画像とせん断波伝搬の観測から生体組織の線維構造と脂肪化を定量的に求める逆問題について検討し,慢性肝疾患の病変進行についての定量診断手法を確立していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により,旅費を使用する必要がなくなり,2020年度の使用額が予算を下回った。2021年度以降の計画を見直しており,2021年度は次年度以降使用額なく使用する予定である。
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