肝線維化は肝発癌と密接に関連しており,線維化の定量評価手法の開発が望まれている。本研究の目的は,複数の生体組織音響特性を用いて,臨床的に十分なロバスト性を持つ非侵襲な慢性肝疾患の定量診断手法を確立することである。第1,2年度は,線維化による散乱体分布の変化の検出方法の高精度化と,生体中のせん断波の伝搬特性変化について,実験と理論的予備検討を行った。 第3年度は,超音波による断層画像が生体の音響特性によりどのように変化するかを検討できるシミュレーションモデルの構築,生体中のせん断波の伝搬特性の周波数特性と加振パルスの波形変化について検討した。 これまでの断層画像のシミュレーションは,多くの場合,生体組織の音速は一定としている。しかし,腫瘤性病変や線維化を伴うびまん性病変では,組織音速も正常組織から変化しており,その影響の検討はほとんど行われていない。そこで,音波伝搬シミュレーションにFDTD法を用い,送波器,受波器配置と媒質の音速を自由に変更できる超音波断層画像シミュレーション手法を構築した。本方法により,周囲と音速の異なる腫瘤性媒質後方の画像変化などについて,より詳細な検討が可能となった。 生体中のせん断波の伝搬特性の検討では,生体組織の粘弾性によるせん断波速度の周波数分散と,パルス加振時の伝搬波形変化について検討した。生体組織は粘性が大きいので,せん断波の伝搬減衰が大きく,伝搬速度に周波数分散性がある。生体組織の粘弾性特性とせん断波の伝搬速度・減衰の周波数特性の関係をVoigtモデルで解析し,50Hzから400Hz程度の周波数範囲で伝搬速度と伝搬減衰を求めた。その結果から,生体表面に与えた加振パルスにより生体内部を伝搬するせん断波パルスの波形変化を解析したところ,せん断波速度計測結果がどのように変化するかを評価でき,臨床の診断結果に与える影響についても評価することができた。
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