研究課題/領域番号 |
20K12670
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
佐光 亘 順天堂大学, 医学部, 准教授 (60581155)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / ALS / バイオマーカー / MRI / 安静時機能的MRI / 構造的MRI / 診療支援システム |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症 (ALS)診断の補助となりうる客観的バイオマーカーが見出されれば、発症早期における類似症状を呈する他疾患との鑑別に有用である。末梢で中枢神経障害を評価できるneurofilament light chain (NfL)と自然免疫に関連するchitinase 3-like 1 (CHI3L1)の血清濃度測定を用いて、臨床現場でよく問題となる初期のALSとその類似症状を呈する他疾患との鑑別を試みた。血清NfL濃度では、area under the receiver operating curve (AUC) は0.90と高い値であり、発症初期のALSにおいても診断能力が優れていることが明らかになった。一方でCHI3L1のAUCは0.55程度であり、発症早期のALSの鑑別には適していないと考えられた。血清NfL濃度は中枢神経障害を反映することが知られているが、ALSの特定の脳部位障害との関連は明らかになっておらず、部位別の機能・構造的MRIとの相関解析で上記が明らかになれば、簡易な採血検査で中枢神経のいずれの部位が障害されているかが推測可能となる。また、安静時機能的MRIに対して独立主成分分析を行い、default mode network (DMN)とsensorimotor network (SMN)を同定し、voxelwise analysisを用いてそれぞれのネットワーク内でのALSにおける変化を調べた。DMNではALSの後部帯状回 (Brodmann area, BA 30)の活動性が低下し、SMNでは中心後回 (BA 1, 5)、上頭頂小葉 (BA 7)と補足運動野 (BA 6)近傍での活動性が上昇していた。ALSで変化していたネットワークと構造的MRIで得られる各脳部位の容量との関連を調べ、診断支援システムに取り込める方法・部位を絞っていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では以下のような実績が得られ、おおむね順調に進んでいると自己評価した。 ①ALS発症初期で診断基準を満たさない場合においても、ALS類似症状を呈する他疾患との鑑別に血清NfL濃度測定が有用であることを明らかにした。 ②ALS類似症状を呈する他疾患とALSの鑑別は、血清CHI3L濃度測定では難しいことを明らかにした。 ③ALSと関連する脳内ネットワークとしてDMNとSMNを同定した。それぞれのネットワーク内で活動性が低下・上昇している部位も明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
安静時機能的MRI解析により同定されたネットワーク内で血清NfL濃度・構造異常と関連する部位の有無も調べていきたい。この構造異常のターゲットとしては、一次運動野を想定してる。剖検症例を基盤としてMRIと実際の解剖学的な各脳部位を結び付けることにより、MRIから解剖学的な各脳部位の容量計算を可能としたFreeSurferという画像解析法を用いて、一次運動野を含む各脳部位の容量を計測する。ALSにおける機能構造連関を明らかにすとともに、これらのバイオマーカーとしての能力を検討し有用なもののみを抽出し、診療支援システムの構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) COVID-19の影響により、研究のためのミーティング・現地における学会発表、特に海外学会における発表の機会が著しく減少したため、次年度使用額が生じた。 (使用計画) 解析も進み、大量のデータが得られつつあるが、それに伴いバックアップ用のハードディスクが慢性的に不足している。この問題を解消するために容量の大きい保存媒体を複数購入する予定としている。また、現地での学会も徐々に増えつつあり、移動中や移動先でも解析が行えるよう、移動に適した小型かつ高性能のマシーン・ソフトウェアの購入も検討する。
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